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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第16話】危うし葵!?ライブハウスに潜む闇のしもべ
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FILE112:哀しき真実……十四等分の姉妹


 ロザリアを救い出してから既に1週間が経とうとしている。クラリティアナ邸でじっくりと療養したことに加え、スパークルネクサスに秘められた力によって回復したこともあってか、ロザリアの容態はすっかり安定していた。ただ、地下の秘密基地でメンテナンスを受ける際、「治療溶液は嫌だ……!」と、嫌がってはいたが――。


「それじゃあ私行ってくるね。あなたたち、父さんと母さんもいるんだから、いい子にしてなさいよ?」


「はーい」


 青いデニムの上着に黄色いシャツ、ジーンズ――という、半分赤くて半分青い人造人間を連想させる服装に着替えてからエリスとそのエリスに絡まれているロザリアにしばしの別れを告げて、アデリーンは駐車場に停めてあった青いバイク・マシンブリザーディアに乗り込んで、マッハで飛ばす。行き先は浦和家だ。事前に小百合のほうから連絡があり、アデリーンもそれに答えて向かう形となった。


(それじゃ、行ってくるわね。カタリナお姉ちゃん――)


 かつてクラリティアナ家で生まれ育ち、既にこの世を去ってしまった【姉】にして両親の実の娘であるカタリナのことを思い出し、天国にいる彼女にもあいさつをして――アデリーンは道路を走る。



 ★☆★☆



「さ、どうぞ……」


 浦和家に着いたアデリーンはバイクを停めて家の中へと上がらせてもらい、出迎えてくれた小百合と少し談笑してから広々としたリビングへ。


「皆さんおそろいね。それでは……」


 そこには、竜平や綾女に葵、なぜか蜜月までおり――少し戸惑ったが自分がこれからやることに変わりはないので、机の上にノートパソコンを置いてテレビ電話機能を起動する。画面に父であるアロンソの顔が映ったのを確認すると、机を囲んでいる他のメンツにも見えるように向きを変えた。


「アロンソさん……」


『――小百合さんのほうこそ、お久しぶりです。このような形での再会になってしまって、本当にごめんなさい』


 パソコンの画面越しとなったが、小百合と綾女が彼と会ったのは本当に久しぶりのこと。竜平はアロンソのことはほとんど記憶になく、葵に関してはもちろん初対面だし、蜜月は既に何度も顔を合わせている。全員、これからはじまることを察知してか、顔から緊迫感を漂わせていた。


『竜平くんも綾女ちゃんも、もう覚えていないかもしれないが……、僕はアデリーンの父のアロンソ・クラリティアナです。よろしくお願いします』


「……いいえ、おじさま。私はっきり覚えてます。よく遊んでもらったから……」


 さすがにあの頃に比べて歳をとったが、彼の顔を見た綾女は昔の事を思い出して笑みをこぼす。それはもう、アロンソが来るたびにかわいがってもらっていたのだ。ただ、様々な事情から当時は綾女とアデリーンを会わせることは叶わず、アロンソはそのことをずっと悔やんでいた。


「え? お、お姉、このアロンソさんっておじさんのこと知って……」


「まー、覚えてなくても仕方ないわよ。あたしたちは紅一郎さんと違って、アロンソさんとは長いこと会ってなかったんだからね」


「それにあの時はリュウもまだちっちゃかったんだもん。そりゃ覚えてなくても無理ないわよ」


 少し困っていた竜平に小百合と綾女がフォローを入れて、竜平を納得させる。葵は先ほどから、アロンソの話に静かに聞き入っていたところだ。蜜月は腕を組みながら、おしゃべりな彼女としては珍しく余計な口は挟まず、黙って座り込んでいる。


「……アオイちゃん、私前に言ったよね。みんなで集まった時に、私の姉妹について話をしたいって。今日はそのために来たの」


「そう言えば。でも、アデリーンさん……聞いちゃいけない気がして」


 葵が悲しそうにしている。アデリーンと親交を深めたい彼女としても関係ない話などではないのだ、決して。少しためらったアデリーンだったが、決心はもうついていたので振り切った。


「でも、いつかは話さないといけないことだったから。みなさんも……。残酷な真実を知ることになってしまうかもしれません。それでもよろしかったですか?」


 話す前に確認を取るが全員が頷いたし、綾女に至っては深呼吸までしていた。


「では――。私はコウイチロウ博士と一緒にヘリックスを抜け出して、しばらくは博士や両親のもとで暮らしていました」


 パソコンの画面越しにアロンソともアイコンタクトを交わして、アデリーンはついに話し始めた。


「そこにヘリックスからの使者が現れて――私と博士を捕らえ、博士にどうしても不死身の兵器を作らせたかったヘリックスは、従わなければリュウヘイとアヤメ姉さんを殺すと脅迫しました。直接手を出したわけではなかったのですが……」


「俺たちが知らないところでそんなことがあったのか……!?」


「しッ! アデリンさんの話を聞こうよ」


 目を丸くして、つい大声を上げてしまった竜平に、綾女は厳しい表情で注意する。小百合に葵、蜜月の反応もきつく容赦がなかったので、竜平は口にチャックをすることを決めた。


「……当時まだ幼かったお2人とサユリ母さんを失いたくなかった博士は、止むを得ず同意して――。そうしてヘリックスの研究施設で再びDNA改造実験が行われた結果、私と同じように不死性を持った妹たちが生まれたのです。エリス、『ヴァランタン』、『カサンドラ』、『アムネジア』、『マリネリス』、『シドニー』、『イナンナ』、『クレヴァー』、『アザレア』、『ルクレツィア』、『ソラーナ』、『キャロル』、そしてロザリア――全部で13人」


 なるべく感情を抑えた口調で話していたアデリーンの眼差しから、葵は哀しみを感じ取っていたが口には出さなかった。彼女の心を傷つけてしまいかねないと、そう思ったためだ。


「……けど妹たちは、エリスとロザリアを除いて長くは生きられず、みんなこの世を去ってしまいました。理由は、ヴァランタンたちの体内でZRゼロ・リジェネレーション細胞が拒絶反応を起こしたためでした。細胞への適性が……無かったためにそうなってしまったのです。博士はそのためにずっと罪悪感に苛まれて、私も見ていて本当につらかったわ。私が妹たちと代わってあげられたなら、ヴァランタンやカサンドラたちが生き永らえたのならどれほど良かったか――そう思ったのです」


「そんな、待ってくれよ……。理解が追いつかない。細胞に拒まれて、13人もいた妹さんのうちほとんどが死んで……っ……」


 アデリーンの口からそのことを明かされた時、その場にいた全員が衝撃から固まった。思い出すだけでももう辛くなっていた中、説明の途中でアデリーンは涙をにじませていた。しかし泣いている場合ではないと自身に言い聞かせ、ひとまず落ち着く。切り替えが早いほうであることを、彼女は幸運に思っただろう。竜平は混乱して、近くで座る姉の綾女にすがった。彼女も彼女で、表情に様々な感情が入り混じっているようだった。弟とは違って落ち着いてはいたが――。


「それじゃ、今俺たちがこうして生きていられるのって――。父さんが無理矢理、生体実験をさせられた結果生まれた子たちが亡くなったからって、そういうことなのか……!? 父さんがその子たちを助けられなかった代わりに守られたのに、俺たちはそれも知らずにのうのうと生きてきたってことなのか!?」


「違うの。ZR細胞は元々移植先の相手に適性がなければ、体内で拒絶反応を起こして、体が崩壊してしまうというリスクがあったというだけで……リュウヘイとアヤメ姉さんは何も悪くないのよ」


 あまりに、残酷で救いのない話だ。パニックを起こしかけていた竜平に、アデリーンは必死で説得を試みる。綾女も本当は泣き出して叫びたかったが、乱れている竜平の頭をなでて落ち着かせる。


「ワタシも、そうなってたかもしれないんだよね――。各務先生やアデレード自身の口から聞いてたんだよね。本当に危ない橋を渡ってたわけだ、ワタシは……ッ」


 そう言い終えてその場にいた全員から顔を反らした時、蜜月は涙を流した。それ以前の軽はずみな発言や、無神経な態度の数々を取っていた自分自身を情けなく思い、憤りを感じたためである。


「それからもヘリックスは不死身の生物兵器に執着して博士にそれを作らせようと迫って、その挙句ディスガイストで構成された侵略・殺戮・破壊部隊の司令官として私を選ぼうとまで――。もちろん反発した私は、博士を連れて再び組織から脱走しました。けれど、力及ばずエリスとロザリアを連れ出すことはできませんでした……。その後は誰にも知られないようにしながら、博士が昔使っていた別荘と両親の家を行き来しながら育ててもらっていました。その日々も長くは続きませんでしたが」


「その時に父さんがヘリックスに――殺されたのね?」


 綾女が唾を呑んでから、アデリーンに訊ねる。覚悟を決めたアデリーンは一呼吸置いてから話を再開した。


「はい。組織の刺客に襲われて、博士を目の前で殺されたことで私はそいつらを許せなくなって、この手で――。以上が、私の妹たちの件と、コウイチロウ博士が亡くなった真相です」


「父さん……あんなやつらのために、なんで……? なんでなんだよ……? なんで大切なもん何も守れずに、殺されなきゃいけなかったんだ! アデリーンの妹たちだって短い命を散らさず、もっと生きられたはずなのに! どうしてなんだよ、どうして……!!」


「竜平、落ち着いて。私も母さんも、つらいのは同じだから……」


 話しにくかったであろう事実をいろいろと話してくれたアデリーンが家族の一員である以上、決して無関係なことなどではない。負い目を感じて泣き叫ぶ竜平を、幼子をあやすように綾女は言い聞かせていたが、こうなってしまってはそうそう泣き止まないだろう。無理もない――。


「紅一郎さんには、ヴァランタンちゃんたちのことをしっかり助けた上で自分たちのことも守ってほしかった。……竜平はそう言いたいんだね?」


 アデリーンと、画面の向こうのアロンソが責任感から気まずい顔をしている中、小百合からの問いにまだぐずっている竜平が頷く。つらいのは妻として、紅一郎を長い間支えてきた小百合も同じだった。


『……親の愛情というのは、そう簡単に善し悪しで割り切れるものではないんだ。紅一郎も当時、最善を尽くしたのだが、結果はアデリーンが言っていた通り何も……。すまない、竜平くん』


 この件については、もちろんアロンソも思うところが多く、ずっと胸を痛めて、後悔していたことを物語る顔で謝罪の言葉を告げた。


「私も、博士と立場が逆だったなら同じ選択をとっていたかもしれない。見捨てたわけじゃなかったのよ、決して。リュウヘイやアヤメ姉さんのことも、ヴァランタンたちのことも両方助けようとして、片方しか叶わなかったというだけで……」


 彼女が述べたようにあまりにも運命は残酷で、無情だった。大いなる力や究極の肉体と精神を得た代償として天が試練を与えたのか、天が彼女を、あるいは浦和紅一郎を見放したのか――。これ以上涙を流すまい、見せまいとして、アデリーンは唇を噛みしめて自身の表情を手で隠す。


(もう、どうしようもないって言うの? こんなのひどすぎる。むごすぎるよ……。みんなには元気になってほしい。わたしにも何かできることは――)


 今、この家にいる全員が深い哀しみに包まれている中、葵は考え始めていた。活気を取り戻して、みんなを元通り明るく元気にするための方法を。

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