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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第14話】カクタスは綾女を逆恨む
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FILE101:綾ちゃんキミちゃん


「絵コンテ・脚本担当の細屋です」


 アデリーン一行の前でそう名乗ったメガネをかけた冴えない男は、デスクの上で原稿用紙に必死に何かを書いていた。今回の舞台の脚本――ではなく、その次にやる予定の脚本であった。また、その隣には名乗った通り絵コンテも立てられている。


「凝ってるね~。本格的だぁ。ワタシ大学じゃ演劇サークルじゃなかったからな」


「ウチは台本読んで覚えるだけじゃなくて、絵コンテにもある程度(・・・・)合わせてお芝居をするようにしてるの」


「え、そこは完璧に合わせるんじゃなくて?」


「柔軟性と臨機応変さは大事だよー、アデリンさん!」


 細屋たちスタッフの作業現場を見せてもらいながら、各々感想を述べたり、抱いたりしていく。小道具ももちろん凝っていて、一行は感銘を受けた。


「すっごーい、聖愛宕崇の劇サーって細かいところまでこんなに力が入ってるの」


「やっぱり、参考になるな……さすがは竜平君の()()()()()


 大学の部室から持ち込まれた、芝居で使用するセットや剣と盾、杖などを見せてもらい、触って指紋を付けないように気を付けた上で、アデリーンと葵はその造形の深さに感動する。「プロの劇団も顔負けの熱意や技術が彼らにはあるのではないか?」――と、2人そろってそう思い始めたほど。そこに耽美かつセクシーな雰囲気のメンバーがやってきた。


「ふっ、ふっ、ふーっ。ウチのサークルのこと気に入ってもらえました?」


 その美貌に惹かれてか、一同は一斉に彼女を見た。くすくす笑う彼女の横に、綾女が「もー!」と茶化して移動する。


「私の大親友にして最大のライバル、キミ子だよ。私からはキミちゃんと呼ばせてもらってんの」


「綾とはヒロインの座を取り合ったり取り合わなかったりの関係でして。今回は譲りましたけど、綾。次はまたヒロインをやらせてもらうんだから」


「キミちゃんってばいつもこんなカンジだから張り合いがあって、毎日楽しいんだよねーッ」


「そそ、お姉さんとはこんな風に刺激し合ってるわけで。心配いらないよォ竜平くん」


 看板女優たる綾女と双璧を成すキミ子の美貌に圧倒されて、竜平はすっかり魅了されている。思えば今の彼はよりどりみどりだ。ガールフレンドの葵だけでなく、美人の母と美人の姉がおり、アデリーンと蜜月に守ってもらえていて、最近はメロニーというふくよかで母性的な美女や、ムーニャンという怪しい魅力たっぷりの女性とも知り合えたわけであり――つまるところ、『モテ期』に入っていたのかもしれない。


「俺さ、いま人生で一番幸せかもしんない……」


「浮かれるなっての」


 鼻の下まで伸ばして、そんな体たらくだから彼は葵に軽くはたかれてしまった。


「そーだ。綾がよく話してた最近存在が明らかになった家族って、クラリティアナさん?」


()()にも()()にも。私なのです」


 アデリーンが先ほど簡単な自己紹介をしたのをもちろんキミ子も把握しており、クールながらも快活な彼女にキミ子も、「いい姉妹を持ったねぇ……」と、喜びを噛みしめる。


「それにしてもキミコさんとアヤメ姉さんって、ライバル同士なのにギスギスしてないんですね。ふっしぎー!」


「お互い仲良く競い合って磨いていく。ライバルって案外そういうもんだと思うよ」


「そーなのかな……」


「そ~なんでしょ~……」


 楽しい時間は過ぎて――。そのうち練習が再開されたので、アデリーンたちは劇場内の客席で実際に芝居をするところを見せてもらうこととする。今は全員レッスンウェアだが、リハーサルや本番では衣装をバッチリ着こなしてライトも浴び、更には音楽も流れ、よりブラッシュアップされた状態で劇を観賞することができるのだ。一通り見せてもらい、感動と興奮を与えてもらった上で、アデリーンと蜜月と竜平と葵は楽屋の入口前まで綾女を迎えに行く。と言っても、劇場を出てすぐそこだ。


「どう? 私、上手にできてたと思う?」


「ワタシら、お芝居については素人だからさ。でも綾さんは、ワザマエ! ……だったよ~ん」


 人差し指をビシッと向けて、蜜月が賞賛の言葉を贈った。もっとも、直後に「人を指差すんじゃありません」と、アデリーンから注意されてしまったが。


「それはおいといて。私、ミヅキはアカデミー賞狙えるんじゃないかって思うんだけどなあ」


「ですよねー。わたしたちを完璧に騙しちゃったんだもん。アレは本当に……」


 アデリーンと葵は、かつて()()()()()()()()()()に関して言及したが、これは怒っているのではなく一種のジョークだ。


「い、いや……アレはだね……その……」


「いいのよ蜜月ちゃん。私たち、()()()()()()はもう気にしてないんだから。本当に――」


 周りからフォローは入れられていても、未だに負い目を感じていた蜜月にとっては、今の綾女の言葉は身に染みるほどありがたいものだった。沈みかけたところでそうしてもらえたので、蜜月は一転して少し憎らしい笑みとともに竜平と葵の肩に手を置く。


「たくましいなあ~。そのたくましさが……これから大人になる上で賢く生きて行く秘訣だよ」


 けれども、蜜月が竜平と葵に向けたその視線からは内面に持つ優しさがにじみ出ており、2人とも肩の力が自然と抜けて表情も柔らかくなった。


「そうそう。ミヅキはぐずるより、ちょっとくらいヘラヘラしてたほうが似合うわ」


「ひっどーい! ワタシを何だと思ってんの!」


 ――このあと、アデリーンたちは演劇サークルの部長たちからお茶とケーキをおごってもらえたという。

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