FILE099:愛などいらぬ作戦
「話が違うじゃねーか!?」
禍津がアジトとして使っていた映画館の跡地に身を隠して、開口一番に繁野大毅はいきり立って禍津につかみかかる。かつては1番スクリーンだった、薄暗いその場所の中央部座席でのことだ。
「あんな青いヒーローみたいなやつやヘンテコな銃持った女がいるだなんて聞いてねーぞ! こっちは綾女に復讐する手始めに、あんたらに竜平の友達の先公の情報を提供したっていうのに、何の見返りも無しかよ!?」
「ふんッ! カン違いするなよ。組織の人間でもない貴様に、機密情報を教えてやるとでも思ったか……マヌケめッ!」
プライドの高さと選民意識の強さから逆ギレした禍津はシートから立ち上がると、うるさくわめき散らす大毅の首を絞めて黙らせる。ただでさえ、アデリーンや蜜月に、元カノの綾女にまで攻撃されて傷だらけにされたところにまた攻撃を加えられたのだ。痛いでは済まない。
「貴様の代わりなんていくらでもいるんだ。ここで貴様を殺して、別のやつを使って『愛などいらぬ作戦』を進めたっていいんだぞ」
「ヒイイイイイイ」
うずくまっておびえる大毅を尻目に鼻を鳴らすと、赤黒いレザーファッションの彼はタブレットを起動して本部――研究施設の集合体たるヘリックスシティへと連絡を取り始める。玉座の間だったが総裁・ギルモアは不在であり、幹部たちのうち、コウモリ男のデリンジャー、ヘビ女のキュイジーネ、タランチュラ男の雲脚、ムササビ怪人の兄妹がいた。
「――愛などという感情は、一時的でくだらないものにすぎない。そんなものにこだわっている下等な人間どもは愚かだ。だから俺はその愛を否定するべく、今回の作戦を実行に移したのだ」
『でもこうして失敗してるじゃないか。人のことを偉そうに言っといて、情けない話だ!』
画面越しにいちゃもんをつけたのはデリンジャーだ。以前、禍津から失態を責められたことが相当頭に来ている様子が見られる。
「無能者は黙っていろ。俺はお前のような出来損ない野郎とは違うんだ」
反論できなくなったデリンジャーを、癖の強い短髪に枝わかれした眉毛、紫の唇で、黒いスーツの男――雲脚昌之が押しのけて画面を覗き込んだ。まるで禍津をにらむように。彼のそばにはキュイジーネは並び、メガネのブリッジを上げて微笑む。
『では、ドリュー・デリンジャーとはどう違うのかを見せてもらおう。それが証明できなければ君も無能だ』
『お気をつけあそばせ。彼女たちに、足元をすくわれないように……ね』
同僚たちからの忠告を聞き終えると、禍津は舌打ちして通信を切り、すこぶる機嫌が悪そうな顔をしてまたシートに腰かけた。




