ダークネスブレイカー
最終話です。
「まさかケビン! 貴方はケビンなの!」
黒く染まったロビンソンの腕に、一部だけ白く浮き上がった痣を見て、ジェニファーはそれが、幼い頃に離れ離れになった弟の腕にあったものと同じ事に気付いた。
「うおおおお!」
すでに暗黒の力に飲まれてしまったロビンソンに、その声は届かない。
ロビンソンから膨れ上がる負のエネルギーはさらに増し、もはや世界を覆いつくさんばかりに強大なものとなっていた。
「何故! 何故ケビンは小説の次が思い付かないだけでこうなったの!」
「ロビンソンはすでに悪魔と契約し、暗黒の力を得ている。ロビンソンはその力を解放してしまったのだ」
ジェニファーの悲痛な声を聞いても、些かも取り乱すことなくゲイルは言う。
「そ、そんな! じゃあケビンは、もう二度と元には戻らないの! 折角見つけた姉弟なのに……」
ジェニファーとロビンソンは、終日戦争の折に離れ離れになってしまった。当時ロビンソンはまだ乳飲み子で、ジェニファーの記憶はほとんどない。それに比べジェニファーは、両親を亡くし、唯一母にお願いと頼まれた弟を守れなかった事を罪に思い、生きているかさえ分からない弟を探し続けていた。それが遂に見つけたと思った相手が、まさかのロビンソンだった。その想いがジェニファーの声を濁らせた。
「まだ諦めるな。ジェニファー、お前には開眼した両の目があるだろう。その両の目は、未来と今は見通せなくなったが、我々では想像も出来ないものが見える筈だ」
「えっ!? 私の目は、もう力を失ったのではないの!?」
大天帝メルビオスを倒したとき、紅と蒼の両眼を限界まで酷使したため、ジェニファーはすでに両の目は役目を終えたものだと思っていた。だがゲイルの開眼という言葉に、驚きを隠せなかった。
「そうだ。ジェニファーは瞳の色が黒に戻ったと言ったが、神約の目を持つものはその力を失えば、その一部は機能しなくなる。だがジェニファーは未だその目に光を宿している。それは開眼した証だ」
それを聞いたジェニファーは喜びを感じた。神に愛され、加護を受けたものだけが持つ神約、それが真価を発揮しさらなる神の御加護を授かったという喜びと、この神眼を使えばロビンソンを助けられると思ったからだ。
「でも、どうすればその力を使えるの! 今の私では無理よ!」
今まさに、ここで使わなければならない事はジェニファーは理解している。しかし神の力を自在に操るには、例え神約を得ている人間でも、想像を絶する時間と鍛錬を要する。数々の命の危機を経験し、やっと紅と蒼の目を扱えるほどにまでなっていたジェニファーには、ゲイルの言葉が理解出来ていても、それは可能とは思えなかった。
「そんなことは無い! ジェニファーが開眼したという事は、これは天啓でもあるのだぞ。エフィロスの神は、その為に今ジェニファーに力を与えているのだ!」
「なっ!」
今まで怒鳴るような事はおろか、声を荒げる事の無かったゲイルの語調に、ジェニファーは驚きと確信を得た。
「わ、分かったわ! どうすればいいの!」
ゆっくり指南を受けている時間の無いジェニファーは、怒鳴る様にゲイルに言う。それを受けてゲイルは、ロビンソンから顔は反らさず、目だけをジェニファーに合わせ、ニヤリと微笑んだ。
「それは私ではなく、己に聞け」
こんな危機的状況でも、普段と変わらず厳しく指南するゲイルだったが、そう言うと冗談だと言わんばかりに鼻で笑った。
「ふっ。ただ、私に言える事は、瞳ではなく、心で見るのだ。神約の恩恵を受けていない私が言えるのは、ここまでだ」
ゲイルが見せた微笑に、ジェニファーの心はまるで荒波の引いた水面の様に落ち着いた。これはゲイルが図らずも、今まで長年共に戦ってきた師弟関係だからこそ、本能的に理解していた。
「分かったわ。でも、一つだけお願いがあるの」
すっかり冷静さを取り戻したジェニファーは、ここから先は、神レベルの力を持つ者しか立ち入れない領域だと知り、ゲイルに遺言ともとれる願を託すことにした。
「何だ?」
ゲイルもその言葉の意味を理解し、ジェニファーとの最後の会話になると思い、愛娘を想うように優しく聞いた。
「もし……いえ。この戦いが終わったら、またゲイルの歌を聞かせて。その時は、私たちの故郷でお願い。出来ればあの家でね」
今までジェニファーは「ゲイルの歌は悲しい」と言い、好んではいなかった事を知っているゲイルは、ここで自分の生家で歌ってくれと頼まれた事に、それが二人のレクイエムにして欲しいのだと悟り、必死に表情には出さなかったが、心底悲しくなった。それでも、
「あぁ。任せろ」
そう答えるほかなかった。
ジェニファーはそれを聞くと、すっとゲイルの前に手を出し、安全な場所で見守れと無言で指示した。
もう目の前まで迫るロビンソンが放つ漆黒のオーラが、ゲイルに何も言わせる時間を与えなかった。ゲイルは無言で頷き、最後に笑みを見せその場を去った。
ゲイルは悲しみの偽りとして見せた笑顔だったが、それを見たジェニファーはとても勇気づけられ、いつ襲ってくるかも分からないロビンソンを前にしても、そっと目を閉じる事が出来た。
「うおおおお! この世の全ての小説を破壊してやる!」
今まで必死に耐えて来たロビンソンだったが、遂に心まで大悪魔アドラメデクに支配され、押さえていた黒い魔力が一気に噴き出した。その声はすでに人の音ではなく、地響きの様だった。
「さらばだなろう諸君。全ては闇に還るがいい!」
もはやロビンソンとも言えない男はそう叫ぶと、光をも通さない絶対の黒いオーラが腕を包み、それはやがて剣の形へと変貌した。
「ダークネス……ブレイカー‼」
男は、一呼吸溜めた声と共に漆黒の剣を振りかざすと、空までもが黒く染まり、斬撃と化した一撃がジェニファー目掛け襲い掛かった。
しかし、瞳を閉じたジェニファーにはそれを目視出来ない。ただ迫る轟音と、圧倒的な威風が迫る感覚がするだけだ。それでもジェニファーは一欠けらの恐怖も抱かなかった。
春の陽気と草花の匂い。
青空から優しく降り注ぐ温かな日差し。
周りには白や黄色の小さな花が咲き、長閑に蝶が舞う。
赤茶けた木造家屋の庭先で、母が真っ白なシーツを干し、父は麦わら帽子を被り畑を耕している。
そしてそこに、生まれたばかりのケビンにちょっかいを出す私。
母はそれを見て「優しくね。お姉ちゃん」と言う。
涙が出た。幸せな思い出なのに、何故か涙が出た。でも……
「ロードトゥ・シャイニングクリエイト‼」
気付いた時にはジェニファーはそう叫び、目を開いていた。
眼前は宇宙の様な暗闇に、沢山の星が瞬くような景色が見えていた。
音は無く、まるで異空間にいるような世界で、ロビンソンのダークネスブレイカーとロードトゥ・シャイニングクリエイトがぶつかり合っていた。
そして……
「おはよう姉さん」
「おはようケビン」
お互いを姉弟とも知らずに戦い続け、世界をも崩壊させるほどまで発展した二人の戦いは、光と闇のぶつかり合いで終わった。
ジェニファーが開眼していた創造の力と、ロビンソンが契約したアドラメデクの破壊。表裏一体の二つの力は、一時の無を形成した。しかし僅かに上回ったジェニファーのロードトゥ・シャイニングクリエイトのお陰で、世界は再び元の姿を取り戻す事が出来ていた。
「今日は俺も手伝うよ?」
ジェニファーの力で、ロビンソンに巣喰っていたアドラメデクは消滅し、ロビンソンはすでに暗黒魔剣士ではなくなった。そして、それと一緒にロビンソンの名も捨てケビンに戻った。
「うん。じゃあお願い」
二人は醜い戦いの末、本当に欲しかった物を手に入れた。それは誰しもが抱くような夢ではないかもしれない。しかし二人は満足している。
この先二人は遥か遠くの小説家を目指すかもしれない。そこにはなろうを通る事は無いかもしれない。だが、二人にはそれは夢ではない。何故なら、二人はもう夢を掴んだのだから。この生まれた家と、庭先で昼寝をするゲイルと共に……
fin
「finじゃねーよ! ホントにこれで行く気かよ!」
「完璧じゃないですか!」
「お前舐めてるだろ!」
「リーパーだって、面白いって笑いながら書いてたじゃないですか?」
「笑ってたら駄目だろ! これちゃんとした話だぞ!」
「ちゃんとって、何処がちゃんとしてんですか!」
「…………」
リリアはとうとう言っちゃった。
「てめー!」
生まれて初めて誰かと小説を書き、正直楽しかった。
ここはこうすれとか、字が違ってるとか、こんなに笑ったのは久しぶりだった。
「では、投稿します」
「あ! 駄目だってヒー!」
俺は今まで一人で小説を作っていた。誰にも相談せず、勝手にこうだと面白いとか考えて。でも、たまに思ったことがある。
「ヒーちゃんここじゃないですか?」
「はい。でも、後書きとかはどうしますか?」
音楽とかは皆で楽しそうに演奏しているのに、小説にはそれが無い。
正直、俺もそれを思うとき、小説家ではなくミュージシャンが羨ましくなった。
仲間と目を合わせ笑い。呼吸を合わせて一つの物を作り上げる。
「ジョニー! 絶対にリーパーをパソコンに近づけてはいけませんよ! 死守しなさい!」
「任せろリリア!」
「殺すぞジョニー!」
小説にはそれが無いと思っていた。でも、今こうして五人で作ってみると、これほど面白い物は存在しないと思う。
「あ、もう一度確定ボタンを押さないと駄目みたいですね?」
「はい。一度目は確認です」
「良く気付きましたねヒーちゃん」
「いえ。私も一度投稿しましたから」
「なるほど。では、押しますよ!」
「駄目だって!」
例え誰も評価しない作品になったとしても、少なくともそうやって笑って作っていれば、それは誰が何を言ったって傑作だ。
「それは私に押させて下さい!」
「行けリリア! ここは俺が抑える!」
「ウぜーなお前! 邪魔すんな!」
俺はこの先、生きているうちに小説家になれるかは分からない。それでもこれからは、こうやって五人で作って行こうと思う。そうすれば、必ず誰かが認めてくれる。俺が一人孤独に書いても、応援してくれる人がいた。好きだと言ってくれる人がいた。
「リーパー! 何処を掴んでいるんですか!」
「オメーの臭い足だよ! 分かったらさっさと諦めろ!」
俺は恵まれている。
「諦めるのはリーパーの方です! ヒー! もう構いません。ポチっと行って下さい!」
「やめろヒー! お前だって」
「ポチっと」
「このクソガキ!」
こんな作品でも登録してくれた四人の読者。アドバイスをくれた恩師。励ましをくれた恩人。勝手に名を使ったのを許してくれたなろう。温かく見守ってくれた隠れファン。
「おお! これで完了なんですね?」
「えぇ。数分もすれば新着に載るはずです」
「マジかお前ら!」
それに、俺には転生してまで世話を焼いてくれる四人までいる。
「ふっふっふっ。私の勝ちです! 敗者のリーパーには、情けとしてこれを上げましょう」
「要らねーよお前の靴下なんて!」
こんな幸せなことは無い! あっ! 靴下の事じゃないよ。
「でも良かったですね。これからは毎日書かなくて良くなったじゃないですか?」
「良くねーよ! フィリアはマジで言ってんのか!」
「ええ……」
「クソだなお前!」
小説家になるのに必要なものはと聞けば、大抵の人は綺麗な文法や上手い描写、読者を引き込むストーリーと答えるだろう。だが、俺はそうは思わない。本当に大切なのは、作者も、読者も、皆笑っていられる事だと思う。
私には面白いストーリーを考える才能が無い。俺には上手い事を書ける文才が無い。そう思う人は沢山いると思う。それは俺にも当てはまると思う。でも、どんなに面白い話を書けても、どんなに綺麗な文法を書けても、書いているのは所詮人間。笑って行こう! それに勝てるものは無いのかもしれない。
「あっ! 出ましたよ!」
「本当ですか!」
「えぇ。一番上にいます」
「おぉ。なんか人気作品に見えるな」
まぁ、俺の場合は参考にならないかもしれない。こんなバカな四人が揃う事などあり得ないだろう。
「はぁ~。もういいや。後で苦情来たら、お前ら全員で対処しろよ!」
「リーパーもですよ。これを書いたのはリーパーなんですから」
「はいはい」
マジで疲れる四人だ。でも、これが俺の小説家への道だ!
「では一区切りついたので、次はこの連載のⅡを考えましょう!」
「もう書かねーよ!」
了
ご愛読頂き、誠にありがとうございました。
話は終わっても、リリア達はまた別の作品に登場します。
今まで温かい目で見守って下さり、誠にありがとうございました。一期一会に感謝します。
ケシゴム




