ヒーロー「竜で来た」ヒロイン「自転車(チャリ)で来たみたいに言うな!」
「第7回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
テーマは「自転車」。
フザケたタイトルに反し、わりと真面目で王道な(?)婚約破棄ざまぁ系物語です。
私の名はアリサ。ラムガン侯爵家の一女にして、王太子イディオ・ガリュウ殿下の婚約者。
実は私の前世は日本人の有紗。事故で亡くなり、気がついたら異世界で令嬢に転生していたの。
転生チート? あるわ。ただの前世の常識だけど。
トイレの設置とか、咳が出たら布で口と鼻を覆うとか、食事の前には手を洗うとか。
自分が嫌だから周りの皆にもその習慣を強制したら、驚くほど疫病や死者が減っただけなんだけど。
最初こそ「神経質で我儘な令嬢」と蔑まれていた私は今や「民の命を救い、生活を改善した聖女」として殿下の婚約者に指名されたの。
その地位を使い更に国の環境を良く……あわよくば日本のような快適な生活に近づけたいと思い、私は内政にも口を出していた。
ある日の事。
民の生活を見る為、お忍びで城下に降りた私は、道端に倒れていた少女を見つけた。助け起こすと泣いて懇願される。
「お願い。ゼオさんを助けて!」
少女は奴隷窟で監禁されていた。彼女を逃がしたゼオという男性はもっと酷い目にあっているそう。
奴隷制度は私の進言で昨年禁止になったのに、まだ秘密裏に存在していたなんて。
私は騎士団と共に奴隷窟を訪れ、奴隷商を逮捕し奴隷達を解放した。解放した一人がゼオだった。
彼はどんな怪我も一晩で治る身体の持ち主。そんな馬鹿なと思うけど、この国の初代国王は竜騎士だったと言うし、ファンタジーな世界なのね。
でも彼はその身体のせいで恐ろしい人体実験を受けていたの。
「可哀想に」
「そうか? こんな傷すぐ治る」
「治っても、痛かった経験までは消せないわ」
そう言うとゼオは目を見張り「お前、変わってるな」と笑った。
私の調査で、ある重臣が奴隷商のボスである疑いが出た。けれど一手遅かったの。
「アリサ・ラムガン! 婚約を破棄し、お前を国家転覆の罪で処刑する!」
イディオ殿下により、私は無実の罪で断罪される。彼の横に侍り微笑むのは、あの重臣の娘。
嵌められたと気づいて抵抗したけど無駄だった。
処刑の日。
死を覚悟して処刑場に立つ私の、遥か上空を滑空する大きな影。
それが竜だと気づいた瞬間、炎の息で殿下と重臣の娘は焼死した。
「お前の危機だから竜で来た」
「自転車で来たみたいに言うな!」
ガッツポーズのゼオに思わずツッコんだら、彼はまた笑った。
「やっぱりお前は変わってる。俺が竜人だと知っても恐れない人間は初めてだ」
やがてガリュウ国は滅び。
ゼオを新たな王、私を王妃とした平和な国が生まれた。
ヤンキーの少年がガッツポーズをして「自転車で来た」のプリクラを取った古いネタがわかる方、いるかな……。
有紗はわかる人。前世は40代のおひとり様女性でした。
もっとも、このタイトルと途中の竜騎士伝説はミスリードなんですけどね。
「竜で(乗って)来た」と思わせといて、
「竜(の姿)で来た」だったという。(*´艸`*)
このお話はだいぶ前に思いつき、5000文字以上の短編になりそうだったのですが、いくらこねくり回しても上手く書けなかったのです。
ちょうどテーマに「自転車」があったので思い切って9割カットし、なろラジに出すことにしました(;´∀`)
因みにガリュウ国は初代国王が竜騎士だったという伝説から、漢字を当てるなら「臥龍」かと思いきや、実は竜騎士伝説は真っ赤な嘘で「我流」だったというオチ。
この世界の竜は元々の戦闘力の高さに加えて、強い生命力(傷がすぐ治る)と、人間の姿に変身できる力を持っています。
そして、ごくたまに気まぐれに人間を愛すのだとか。
初代ガリュウ国王はゼオの伯母さんに愛され、竜の力で戦争に圧勝して王になりますが、そこで慢心し、贅沢と他の美女達に溺れます。
変わってしまった国王を嘆き、伯母さんは彼のもとを去りました。
もう竜が居ないことを国王は誤魔化し、自分は竜騎士で、その気になればいつでも竜を呼べると周りを威圧していたのでした。(つまり、イディオ殿下とその父である現国王、先祖の血からしてダメ男だったのね)
ゼオは伯母さんの話を聞いて人間の姿でガリュウ国を訪れたのですが、奴隷商に捕まってしまいます。
傷が治る身体のため、彼の血から不老不死の薬を作れないか(それができれば重臣は奴隷どころでない大儲けになる)と実験で傷をつけられていました。
竜の姿に戻って暴れれば一発で奴隷窟を破壊して逃げ出せたのですが、他に小さな子どもの奴隷たちがいてゼオを慕っていたので、ゼオは彼らを巻き込み殺すことはできない、と耐えました。
他の奴隷をコッソリ逃がしていき、全員逃げ出せたら暴れるつもりだったのです。その前に逃げた少女の一人に出会ったアリサが救出してくれたというわけでした。
……いやー、書けなかった設定モリモリでした(;´∀`)
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