男爵家令嬢がやってきた
第一王子から聞いたんだけど、第二王子のアデュランは打って変わったように真面目に執務をこなすようになったらしい。
これは血筋だという。今まで不真面目でも本気で恋をしたら、真面目になる種族の王族らしい。意味が分からねえ……。好きな人に振り向いてほしいから誠実アピールをしてるんだろうか。いや、真面目になることはいいことなので、別にいいのだが。
だがしかし、それと同時に一つ今問題が起きている。
「魔王! あんたのせいでッ……!」
真面目になった弊害というべきか。
第二王子と付き合っていた男爵家令嬢のユリカ・ペンドントが魔王城に押しかけてきたのだった。たしかに見た目可愛らしい。が、同じ女子の勘か腹黒い気がするな。
一応優しく別れ話をしたらしいが、ユリカは嫌だったようだ。
「私何もしてないわよ……」
「うるさい! あんたがいるせいで私フラれちゃったじゃないの!」
「そんなの知らないわよ……」
出会い頭に襲い掛かってきたのでビャクロが持ち前の体術で身を拘束し、ワグマと会話している。
「というか、あんたエレメルを追い出してその座についてたんでしょ? 誰かをこっぴどく蹴落としてする恋なんて将来が心配になるわよ」
「なによ! 恋愛は蹴落としあうものでしょ!? 私何も悪くない!」
「じゃあ私も悪くないわね。蹴落としあうものならば」
「悪いわよ! 悪の魔王ごときがなぜ私から奪うの?」
「ねえ、パンドラ。どうにかしてよ……うっさいんだけど」
「といわれても」
私は肩をすくめる。
ひどい転落ぶりだ。常に第二王子のそばにいて甘やかされ、甘やかしていた。それに幸せを感じていたのかもしれないが、愛する人が本気で愛する人に出会ってしまった悲しみは理解できる。
その怒りを誰かにぶつけたい、そんな気持ちだって理解できる。彼女だって本気だったんだろうからな。
「彼女も本気で第二王子が好きだった、それを横取りされたら許せないのは当たり前だし私にはなんにもできないよ」
「う……ひぐっ……」
「エレメルにやってもない罪を擦り付けてでも彼の隣に立ちたかった。だからこそ王妃教育も頑張っていたんじゃない?」
「え?」
「男爵家が普通王妃に選ばれるわけがないし、そういう教育は小さいころから進められるもんだよ。でも、彼女は違う。途中から王妃の教育も何もない状態から始めるんだ。もうやってるでしょ?」
「う、うん……。私は頑張ってたの。あの方のそばにいられるならって……。エレメルには悪いことしたとは思ってる……。で、でも私はっ! そこまであの方が好きだった! あの方も私を好きになってくれた! でも、あの方はッ……!」
「エレメルを蹴落としてっていうのが問題あるんだけど……。エレメルは多分君が本気で懇願したら辞退してくれたはずだよ」
「……え?」
「そうだよね、エレメル」
と、入ってきたエレメルにそう問うた。
エレメルは無言でうなずく。
「第二王子に私は恋などしておりませんでした。王妃教育は頑張ってきて、それを無駄になるのはとても悲しいのですが、私は別に言ってくれればお譲りしましたわ」
「うそ……」
「本当です。突然婚約破棄されたときは泣きました。あの大変だった王妃教育を頑張ってきたのに一瞬で無になったときは自分の今までは何だったのかと思いましたわ。ですが、言ってくれたら私はあなたに王妃教育をし、その座を譲ってもいいとは考えておりました」
それを聞くと、抵抗しなくなった。
しゅんと静まり返る。その時、また扉が乱暴に開かれる。誰か訪れたのかというと、私の知らない男の人。そういえば宰相の息子、騎士の息子も陥落しているって言っていたような。
助けに来たのかな?
「ユリカ!」
「アラン様にジガルド様……?」
「魔王軍、ユリカを離せ」
二人がこちらに武器を向けてくる。
ビャクロは、苦笑いをうかべユリカを解放すると、ユリカは真っ先にエレメルの元に向かった。そして、勢いよく頭をさげた。
「ごめんなさい。私はっ……! あなたに……!」
「いいのよ……。婚約破棄されこんな素敵なとこにきたんですもの。むしろあなたには感謝して……」
「……女神」
「ふぇ?」
「あ、も、申し訳ございません……。」
困惑するエレメルと、それに困惑するアランとジガルドという男。
「悪女エレメル……?」
「なぜ、頭を下げて……」
「アラン様? 女神に向かって悪女とは?」
「女神じゃないわ!?」
「謝りなさい! 女神を悪女と罵った事! いますぐ!」
「ご、ごめんなさい?」
「だから女神じゃないって言ってるわよね!?」
ああ、なんかわかった気がする。ニホンは根は悪くない人ばかりなのかもしれない。恋や憧れを射だしてしまったら一途っていうだけのただのバカの国だ。




