劇の物語
悪役のあるべき姿とはどんな形だろうか。
最終的にはやられるのが悪役なんだろうか。私はそれは違うと唱えたい。悪役は滅ぼされるべきというのは時代錯誤である。
「もう思い残すことはないもんね……? 新世界にも、来れたんだからさ」
私は不敵な笑みを浮かべる。
「パン子ちゃんさすが! 悪役が身についてるね!」
今のは劇の練習ですから。
結局劇をやることになってしまった。それも、有名な漫画をモチーフにし、その劇を演じる。私の配役は悪役である悪の総統ジュリエット。主人公のロミオ二等兵が新世界を目指し、総統、ジュリエットについていくが、ジュリエットの思考に反対し、階級の差をものともせず立ちむかうそんなストーリー。ロミオとジュリエットみたいな恋愛劇ではございません。ジュリエットが悪役です。
「ロミオよ、新世界に来たかった理由はなんだ?」
「それはっ……新世界には、私の目指す目標が……!」
「目標? そんなの新世界にあるわけがないだろう。所詮力不足なんだよお前は。私の攻撃にも太刀打ちできないんじゃ、新世界に行く権利はない」
「し、新世界は誰にでも行くことができるはずだ……!」
「その通りだ。だが、その程度で新世界を生き抜くことは不可能だ」
だが、ジュリエットは悪役と見せかけて主人公をかばっているだけだったりする。
原作の最後はロミオが新世界に行く。だがしかし、新世界は魔物の巣窟でもあった。ろくに剣を握ったこともないロミオはすぐに音を上げる。正しかったのはジュリエットだったのだ。誰にでも行く権利はあるが、新世界で生き残るには力が必要だと。
その時、ロミオは自分を憎んだ。そして、魔物にやられそうになったとき、ジュリエットが助けに来たのだった。
『まったく、だから言ったのだ』と、ロミオに切られた脇腹を押えながら。
「ロミオ。まだまだお前には未来がある。だから、さっさと逃げろ」
「そんな……! 総統はっ……!」
「うるさい。最後まで私の命令を守らないつもりか? 行くなと忠告したのを破るなど命令違反は数知れず。とんだクズ野郎だな」
「でも……!」
「自分が主人公だという気持ちがぬぐえなかったか? お前が世界の主人公でいたつもりか? 笑わせるな。主人公というのはもっと強くあるべきだ。お前じゃまだ弱いんだよ」
「す、すいません総統!」
と、ロミオは逃げ出す。
ジュリエットの生死はわからないまま二年が過ぎて、ロミオは昇格し、大将にまでなった。力をつけたロミオは、また、新世界へと足を踏み入れる。
自分が犯した過ちを、自覚するために。なんて愚かだったんだろうと、二年前の自分を恨みながら。
「ジュリエット総統はいいやつではなかったけど……悪い人でもなかったな」
そういって、ジュリエットを追悼するのだが。
「なに勝手に殺してるんだ雑魚が」
と、ボロボロの衣服を着たジュリエットが目の前に現れ、ロミオが謝罪するのだ。
とまぁ、主人公がクズで、実は悪役が正しいという感じのストーリーだったりする。
ジュリエット役には自信がある。悪を演じることは私の大得意だから。あくまで演じるだけ。私自体が悪というわけじゃないからね?
「じゃ、再開。アクション!」




