友人としてのアヴェール
で、数日後。今度はアバロン教最高司祭のアヴェールがやってきた。
「こんにちは」
「はぁ。本日はどのようなご用件で?」
「たんに疲れたから会いに来ただけですよ」
嘘くせえ……。
応接間に案内し、アヴェールがソファに座ってくつろいでいた。
「さすがに教会というのは居心地悪いもので。敬虔な信者がいるのはいいのですが、神父など腹にイチモツ抱えているのが多くて嫌になりますねぇ」
「それ、あなたがいいますかねぇ」
お茶を出してやる。
「くつろげる場所がないのですよ。暇があれば私に取り入ろうとしてくるやつばかりでして。ほーんと、つまんないやつばかりですよ。教会というのは」
「他は貴方と違って神を信仰してますし。つまんないのは当然だろう……」
「そうなんですけどね」
アヴェールは出されたお茶をぐいっと一気に飲み干した。
ああ、本当に用事ないなこの人。ただ単に暇だから来たって感じがすごいぞ。愚痴を吐きに来たんだろうか。なら早く帰ってほしい。切実に。
「でも、つまんないやつばかりで辟易しているというか。あなたみたいな友人が近くにいれば面白かったんですがね」
「私友人って類なの?」
「もちろん。勝手に友人扱いさせてもらってます」
「そうなんだ」
私のほうは思ってなかったけど。知り合いって類だったけど。
「神にも縋りたいんですかねぇ。それほど生活がピンチだというわけでもなさそうですし。そういえば、第二王子がつい先日私どものところを訪れましたよ」
「ふぅん」
「私を味方につけようと熱烈な信者を演じてましたよ。大根でしたけど」
「へぇ」
何を企んでいるんだろう。
アバロン教を味方につけてまた私たちに挑もうとしているのかもしれないな。バカだとは思うけどね。現にこちら側にすでについてるし。
「私どももその猛烈なアプローチを受けてあちらにも味方することにしました。最終目標は魔王の殺害だそうです」
「へぇ。殺すの?」
「まさか。本当にあちらの味方ならこういうこと話すわけないじゃないですか」
「だよね」
「ただただ現状を報告しておきたいんですよ。第二王子の動向、気になっていたでしょう?」
まあそらね。
それにしてもまだ懲りていないのか。バカだというかなんというか。
「私は友人を大切にする人間なんですよ。だから、裏切りません」
「そう」
「あちら側は裏切っても別に構いませんが、友人にだけは嫌われたくないのでね」
と、アヴェールは不敵に笑う。
私はそっとお茶のお代わりを出してあげたのだった。
☆ ★ ☆ ★
私が魔王城をでていて数歩歩く。
そこには第二王子がびくびくとしながらも立っていた。
「どうだ? 取り入る算段は付いたか?」
と、第二王子がびびりながらもいってきた。
バカだろうとは思う。前に手痛くやられているにもかかわらず、まだ懲りていない。この国はこのままだと滅ぶだろうなとは思っている。神だなんだは信じていないが、この国を想う気持ちは本物だ。
バカな第二王子には本当に協力するつもりはない。居心地がいいのはあちらだから。
「いえ、信者になってくれませんでした。神の信者にならないとは不届きものもいましたね」
「魔王は神を信じないだろう。教会にとっては敵だろう?」
「ええ、神を蔑む愚かなものは、教会にとっても目の上のたん瘤。きっと排除してみせましょう」
私は道化のようににやりと笑った。




