いきなりエンカウント:悲痛な勇者
とりあえず能力の確認はやめて謁見の間に向かうことにした。フレンドメッセージでワグマが早くこいと言っていたので。
そして向かうと……なにやら剣を持った女の子が泣きながらワグマに剣を向けていた。
「やるしかないやるしかないやるしかない」
そう呪詛のようにつぶやいている彼女。
「だれ?」
「勇者よ」
「えぇ……」
まさかのいきなりエンカウント。
勇者の女の子はとても怖がっている。
私たちに怯えているわけではなさそうだ。
「ねぇ、女勇者さん。何そんな怖がってるの?」
私がそういうと、女勇者は話し始めた。
「私が魔王を殺さないと、国に私のお母さんとお父さんが殺されるんです……! 私は戦いたくなんかないのにっ……! 魔王を殺さないと一族逆賊扱いにするぞって……!」
「ふぅん。それってニホン?」
「ニホン…ではない、ん、です、けど」
腐ったような国もあるもんだ。
多分この子には勇者の血が流れている。左の手の甲にはなにやら紋章が光っている。あれが勇者の紋章だろう。
勇者の力が覚醒したから、魔王討伐に送られてきた。そういうことだろう。
「魔王さんを殺せなかったら私のお父さんとお母さんが死んじゃいます。私、絶対敵いません。私だって死にたくないんです。でも、生きて国に帰ったら……」
ぽろぽろと涙をこぼしはじめた。
なるほど。生きて国に帰ったらダメということか。その国は勇者の血を毛嫌いしている可能性があるな。だからこそ、魔王を殺して帰ってきても魔王を倒せなかったっていちゃもんをつけるつもりだろう。自分たちは魔王を見たことがないのを棚に上げてこれは本物か? と討伐証拠を持っていったとしてもそう問われることは確実と言える。
「でも……お母さん、お父さんとあの世で一緒になれるんなら……死んでもいいかな……」
と、諦めたのか、剣をその場に投げ捨てる。
「魔王さん。一思いにやってください。私は抵抗しません。あなたに剣を向けたので首をさくっと切り落としてください。私はあの世でお父さんたちと……うぅ……」
「しないわよ! というか、重いのよあんた! その国は私たちが何とかしてあげるから! あなたはここに住んでいいから! ね? だから殺さないわよ!」
「そうだな。とりあえずパンドラがどうにかする」
「私がどうにかすることは確定なのね……」
まぁ、ちょっと考えてみるけど。
「お、お父さんとお母さんも一緒に住まわせてください!」
「いいわよそれぐらい。部屋あったかしら? なかったら森に作る?」
「森に作ってでいいでしょ。魔物出るけど」
「魔の森なら勇者訓練で一か月放置されたので魔物は余裕で倒せます!」
「ねえちょっと? 私より本気で強いんだけどこの子……」
ワグマも私も魔の森の魔物にはちょっと苦戦するからなぁ。というか、今は従えてるし倒すことは考えなくてもいいんだけどね。
「あと、パンドラ。つっこまないでおいたんだけど……何で浮いてるの?」
「ん、まあいろいろあって」
「いろいろって……」
とりあえずこの勇者どうしようかな。
「とりあえず私たちはこの勇者の親のところまで向かおうか。なんかあったら私が考えるしこの子の親の保護をしよう」
「そうね。まずは親の保護ね……」
「その、女勇者だったか? 案内頼めるか。そんな国にはもう行きたくないだろうが我慢してくれ」
「両親を助けていただけるのでしたら! その、対価は……わ、私の体ですか? 血なら少し分けても大丈夫で……」
「いいわよ! 善意として受け取りなさい!」
「仮にも魔王が善意って……」
なんていうか、矛盾してるというか。
私たちはその国に向かうことになった。




