感謝
私は目を覚ます。
「目を覚ましたのね!」
と、月乃が目の前にいた。
私の腕には点滴が繋がれており、心拍数を測る装置も置かれ、隣にはパソコンの前に座る男性がいた。
「あ、現実世界かここ」
「ようやくと言った感じですがね。こんな複雑なプログラム…一人で作ったとは」
男の人が感心したように言う。
私は体を動かしてみる。少し体が怠いが特に不調とかいったようなものはない。
パン子ちゃん、大復活!
「ま、そのプログラムは消すよ。私みたいなやつ出てきたら困るからね」
私はパソコンを貰い、プログラムを削除する。
こういう事故は割とマジで笑えないからな。興味本位で作ったとはいえ迷惑をかけすぎた。
私はプログラムを削除する。
「勿体ない…」
「実用化はむずいでしょ。これで電脳世界でずっとーってなってもそれはそれで嫌だし」
「そう、ね」
「この技術は私たちぐらいしか作れんから私が秘密にしてりゃ誰も作れんて」
ま、これよりも構想を練ってるものがある。それは月乃から借りた資金をもとにして作るが…。
素材も高いし誰も手をつけたことがないもの。開発に成功するかは私次第ってことだ。
「さて、私退院できるしょ?」
「医師の診断によるわね」
退院してオーケーと言う指示をもらったので私たちは病院から出る。
外はあいにくの雨だった。ざーざーと雨が降っている。
「うへえ、雨かよ」
「台風が近づいてきてるらしいわ。あんた結構災難引きやすい体質だから気をつけなさいよ」
「そんな立て続けに災難なんて…」
と、突然突風が吹き私は転んでしまう。
転んだ先に水溜りがあり、目の前に車が通り水溜りの水が私にかけられた。
月乃の方を見ると頭を抱えている。
「なにその不幸のピタゴラスイッチ…」
「私の幸運ってもうないのかな…」
最近はなんていうか不運しかない。
私自身なんも悪いことはしてないし日頃の行いはいいはずなんだが…。
「ほら、たちなさい」
月乃は私に手を差し伸べてくれる。
変わらないな。私がひどい目にあってる時、悲しい時、いつも手を差し伸べてくれたのはこいつらだ。
汚れた私を引っ張り上げてくれる。大学生になって、まだ実感できるありがたさ。
「…月乃は本当に昔から私たちを助けてくれたよな」
「何を今…。助けられたのは私の方よ」
「そんなことないっての」
私は月乃の手を取り…こちらに引っ張った。
「きゃあ!?」
「へっへーん。騙し討ち!」
「パン子ぉ〜…」
恨みがましい目でこちらをみている。
月乃も水溜りにダイブし汚れていた。
「よくもやったわね!」
「ちょ、暴力禁止っしょ!? 私たち大学生! 大人になろうぜ!」
「口喧嘩では負けるから実力行使しかないのよ!」
月乃が殴りかかりそうな手を止める。
すると、目の前にタクシーが止まった。降りてきたのは白露だった。
「あれ、白露、オリンピックは?」
「心配だからさっさと終わらせて帰国した。何してるんだお前ら」
「パン子が…」
「白露、助けてくれ」
「…そうね。手を出してくれるかしら」
私たちがそういうと白露は仕方ないなと言って手を差し伸べてくる。
ふっ。甘い。
「信頼しすぎだっての!」
「あんたも道連れよ!」
「おわっ、なにする!」
白露も水溜りにこけ、三人ともびしょ濡れだった。
白露は悔しそうに顔を拭う。私と月乃は笑っていた。それをみて白露も笑う。
「なんか昔に戻ったみたいだな」
「私とパン子の出会いってこんな感じだったわよね」
「そうそう。あんとき出会えてよかったと思うよ。改めてありがとな」
私は立ち上がる。
「ま、遊んでないで家に行くわよ。白露、結果は?」
「金メダル。昨日もらった」
「じゃ、祝勝会でもするか。月乃の家でいい?」
「用意させとくわ」
月乃は携帯を取り出し電話をかける。
「ま、この金メダルはお前らのおかげだからな。感謝してる。昔のままの私だと弱かっただろう」
「ほんと今日感謝されるわね…」
「お互い様でしょ? さぁー、酒飲もー!」
「…あんたまだ誕生日まだじゃ」
「来年二十歳! 大丈夫!」
「身内に警察関係者がいる前でよく堂々と法を犯す宣言するな」
そうでしたね。




