怪物は悉くを否定する ②
私とユーマは対峙する。
すると、ユーマはいきなり切り掛かってくる。元勇者とあるだけ剣の実力はあるようだった。
私は一歩身を引く。ギリギリ躱せた。
私は魔王の遺産を取り出し、弦を引く。
狙いを定めて矢を放った。一閃。だが、その矢は剣で軌道を変えられたのだった。
「殺してやらああああ!」
「っと、油断できねえ…」
状況は私が不利だ。防御に回っている。
ヘヴンズアローでちまちま攻撃はしているが…。相手は倒れる気配はない。
「おらあ!」
と、私は躱したが肩が当たってしまい、肩に傷がついたのだった。
私は痛みを感じる。歯を食いしばり耐える。
「いっ…」
「ひひっ! 勇者舐めんじゃねえ!」
何が…。
「何が勇者、だよ。お前はそんなんじゃないっての」
「あ?」
毒が塗られていたようで麻痺してきた。
動けない。
動けない私の喉元に剣を突きつけるユーマ。私は声を出し、笑ってやった。
何が勇者だよ。もう地に堕ちたくせに。お前が勇者を名乗れるなら魔王は正義を語れるさ。
「真の勇者はそんなことしない。お前みたいなことは絶対にしない」
「……」
「お前はただの悪党だよ。勇者でもなんでもねえ」
「うるせえ!」
私はスキルを発動する。
メイドインヘヴン。ダメージを無効化だ。これでしばらくは耐えてやる。
「なっ…」
「へっ。とりあえずこれでしばらく耐久できるな」
とりあえず麻痺したのでアイテムを使って直した。
私は立ち上がる。
「悪党はさー、結局は正義のヒーローにやられるんだよね」
「なら俺が正義のヒーローさ。国を壊そうとする悪の魔王軍を倒したヒーローになってやるさ」
「でも、なんで悪は勝てないのかな? 悪が勝ってバッドエンドってのも悪くないよね」
正義は勝つ、悪は負ける。そんな定義は現実にはない。現実は非情だ。
正義が勝つのは所詮シナリオの中だ。そんなのはない。
私は魔王の遺産の弓の弦を引く。狙いを定め、放つ。
いきなりのことでビックリしたのかユーマの肩を貫いた。ユーマの肩から血が流れてくる。
「最後に勝つのは私だよ」
「うる、せえ…! 魔王風情がそんなこと言うんじゃねえよ。魔王は勇者に打ち倒される役目なんだ。勇者の引き立て役だっ…!」
私は矢を持って笑う。
毒を塗っておいた。劇毒だ。人間が触れたら死ぬような毒を聖杯で生成した。
流石は勇者の体というか死ぬことはなかったらしい。
「ひひっ、あんたがやってるように私も矢に毒を塗ってあるんだよ〜ん!」
あんただけがやると思うなよ。
普通の人が触れたら死ぬような劇毒だ。勇者は死なないと言えど結構痛いだろうな。
「もう一発!」
「や、やめろっ…」
「聞こえない」
「やめろ!」
王城の外では爆発音が聞こえる。
窓の外の景色をみると街が派手に壊れていた。やっているなあいつら。計画通りだ。
私はユーマにも光景を見せてやると、ユーマは悔しそうに唇を噛んでいた。
「これが君が作り上げた末路だよ? 悲しいねぇ」
「悲しいって…全部お前のせいだろうが!」
「私は悪くない。お前が悪い」
私は矢を手に持つ。それを見てユーマは死を悟ったんだろう。
足掻こうとしていた手を落とした。
「…抵抗しないの?」
「したって…どうせ殺すんだろ。俺は無駄なことはしたくない。全身に毒が回ってきている。もう長くない」
「そう」
私は矢を振り上げる。
「最後に聞かせてくれよ」
「なんだよ」
「俺は確かに悪いことをしたかもしれねえ。でも、この国は大事だったんだ…。この国はどうだった。過ごしやすかったか?」
「…過ごしやすかったよ。どこの国よりも、どこの世界よりも」
「そうか。あともう一つ」
「まだあるの?」
息も絶え絶えなのによく喋る。
「俺は悪人か?」
「さあね。少なくても、この場には善人はいないよ」
「何をいう。善人がいないなら悪人しかいないだろうに」
「勘違いすんな。私は悪人だ。お前はひどいエゴイストだったが国は好きだ。国を愛することは悪ではない。中途半端な悪人だよだっせえ」
「そうか。俺は中途半端だったかぁ…」
ユーマは血を吐いた。血を吐きながら笑う。
「もういいわ。殺してくれ。俺はもう抵抗せん。神に誓う」
「お前、神信じてねーだろ」
「さあね」
私は矢を振り上げる。ユーマは振り下ろされる矢を目で捉え、口角を上げる。心臓に矢が突き刺さった。
「謝るよ。ごめん。許されないだろうけど、な…」
そう言い残しユーマの体は動かなくなる。
死んだ、のだろうか。
私にはわからない。まだ隠し玉があるような気もするがないような気もする。だが、こんなあっけなくていいのだろうか。
私はとりあえず死体蹴りとして腹部を貫いた。
ぴくりとも動かなくなり、本当に死んだようだった。
なんともあっけない幕引きだ。元勇者のユーマ。でも、彼の愛国心は本物だったんだな。
悪いことをしたとは思ってないが、あんな私欲で人魚を殺戮さえしてなかったらと思うと…。ま、どっちにしろこいつも悪人だった。ろくな最後にはならないとは思ってたんだろうな。
とりあえず、勝利。




