青春を謳歌
今年は行く先々で酷い目にあっているが今のところひどいことは電車に乗り遅れたこと以外なし。
「いや、マジでごめん。財布落とさなければ間に合ってたのに」
「気にしないでいいよ」
「今年はマジで災難続きなんだよ…。殴られるわ誘拐されるわで…」
「な、なんで殴られたの? また危ないことに…」
「違う違う。婆ちゃんちに行って風呂入ろうとしたら姉の彼氏がいて彼氏が不審者だと思って顔面を…」
誘拐以外は危ないことしてないのだ。誘拐以外は。
今年は厄年だ。修学旅行でもなんかあるかもしれない…。最悪だ。
「…強く生きてください」
「慰めはいらない!」
私たちは次の電車を待っていた。
もう五時近く。こりゃ集合時間に間に合わないな。
財布は幸運なことに見つかったが中身が…なぜか増えていた。名前も夢野って書かれた名札があるので私のだと思うが…。
「それにしてもなんで増えてたんだ? 増殖バグか?」
「財布抜き取るならわかるがお金を入れるというのはないよな」
「相手にデメリットしかないものね」
四万くらいだったのが二万増えている。この世界はゲームなのか? 本当に増殖バグか?
財布を伏見稲荷大社で落としたら中身が増える。ワ○ップに乗せるか?
「電車が来たわ」
「うん」
私は電車に乗り込むとき横を向くと狐が座っているようにみえた。私は目を擦ると狐はいなくなっていた。
『間もなく…』
「ほらパン子。なにしてるの?」
「あ、うん」
私は中に入る。
狐がいた…? 見間違いだろうか。
ホテルに戻ると先生に少し小言をいただいたがご飯の時間なのでレストランに向かうことになった。
先に食べており、私たちも今からでいいから食べろということ。ビュッフェ形式でローストビーフなど置かれている。
私はおぼんを手に取り、皿をとってサラダを盛り付ける。
「タマネギにキャベツ、レタスにコーン…。ドレッシングはゴマダレ〜」
「肉だ肉。ステーキが食べたいぞ」
「とりあえずパエリアね。あと貝」
それぞれが自分の料理をとっていく。
この時私は後に起きることをわかっていなかったのだった。
☆ ★ ☆ ★
ビュッフェを食べ終わり、俺は阿久津たちを部屋に呼んだ。
パン子さんはいない。今回はパン子さんに関する話だからだ。
「なによ話って」
月乃さんが不服そうにいう。
大森くんが俺の背中を叩く。そうだ、言うしかない。俺は決めていた。
「明日の夜、告白したい」
「へぇ、誰に」
「ぱ、パン子さんに…」
はっきり言おう。俺はパン子さんが好きだ。
賢く、図太く、自分の意見を持って凛々しい。いつしか俺は彼女に目を惹かれていった。
初めは単なる普通の会話だった。クラスメイトだから仲良くなりたいと思っただけだった。
でも、彼女の優しさに触れて、俺は…。
「それで私たちあんたの告白を手伝えって?」
「う、うん」
「はぁ…。あのパン子のことだからどこかに案内しようにもすぐバレるわよ」
「…えっ」
「なによ」
俺は意外だった。月乃さんはてっきり俺のことが嫌いなんだと思っていた。嫌いでパン子さんが大事だからこそ拒否されると思っていたが…。
「いや、意外だなって」
「手伝うのが?」
「その、俺のこと嫌いなのかなって」
「嫌いではないわ。苦手なだけよ。それに、私の感情で邪魔するってのは最低じゃない」
苦手かぁ…。
「それでどこで告白するんだ? この部屋か?」
「風情ないわね…。ま、パン子は夢見がち少女じゃないから別にどこでもいいだろうけど…」
「そこは俺が決めたんだ。場所は京都駅屋上」
「なかなかいい場所選ぶわね…。センスもイケメンなのかしら。あー、やっぱあんた苦手よ」
「まあまあ。で? 夜にするんだろう? 夜に行くとなると抜け出さなくちゃならない。だけど玄関ホールには先生がいると思うぞ」
「それを考えようとしてるんだ…」
ここは修学旅行だ。
京都駅の屋上で夜景を背景に告白をしたい。ムードとかそんなのがあるし…。
抜け出すにはどうすればいいのか。
「先生に言えばオーケーもらえるんじゃない?」
「そうだな。この学校緩いしな」
「でも…告白するから抜け出させてくれっていうの恥ずかしい」
私がそういうと、月乃さんはため息をついた。
「しょうがないでしょ。どうせバレるんだから先生も巻き込みなさい。告白するって決めたんなら恥じらいを捨てなさいな」
「…そうだね。わかった」
俺は部屋から出て先生のとこに向かう。
先生に言うと青春だねぇと言って先生も同伴するならオーケーってことになった。
先生は影から見てるからなと言うことだ。恥ずかしい。
俺は部屋に戻り、報告する。
「よし、じゃ、明日ね。パン子は私たちが連れ出すわ。あんたと大森は先行ってなさい」
「ど、どんなこと言えばいいのかだけを…」
「そうねぇ。ありのままぶつけなさいよ。パン子はどんな言葉でも受け入れてくれるわ」
といって、月乃さんたちが出ていった。
ふ、不安だなあ。




