修学旅行一日目の自由時間
午後の時間になる。
自由行動つってもうちのクラスのやつは大抵海外行きやがったし…。月乃たちは月乃たちでクラスの奴らに呼ばれていっちまったし何をすりゃいいんだよ。
とりあえず私はホテル内を散策することにした。
エレベーターに乗り、一階に降りる。
「俺はこの酒にするぞ」
「それ度数高いでしょ」
「いいじゃねえかよ」
と、先生方が売店で何やら会話していた。
「先生が修学旅行中に飲酒って…」
「げっ、残ってたの?」
先生二人がバツが悪そうにしていた。
手には酒が持ってる。いいのか? いや、別に私が黙ってたりしたらバレないかもしれないけど私に弱みを握らせるつもりか?
「こ、これは家に帰ったら飲むやつだ! 宅配で送るさ! なあ?」
「え、ええ。京都の地酒とか家に送ってちびちび飲もうと…」
目が泳いでいる。
「ゆ、夢野にもなんか買ってやるから内緒に、な?」
「複数個」
「一個」
「よし、電話して…」
「たくさんいいよ! ほら、好きなもの買いなさい」
私を買収して誤魔化すつもりかよ。仮にも進学校の先生だろ…。
私の住む街って基本的にどっか緩いんだよな…。
「でも私たちが寝た後って勤務時間外だから飲んでいいとは思うんですけどねえ」
「ほら、世間が許してくれないんだよ。あくまでこっちは生徒を指導してる立場だからさ…」
「今は色々と煩い親もいるのよ…。やれ教師だからだの…。夜に見廻りもせんにゃならんのよ」
先生も大変だなあ。
まあ、たしかに見回りする必要もあるし生徒が抜け出さないかも心配があるだろうからな。
世間体も大事だからなあ…。
「ほら、夢野。これなんか美味いぞ」
と、持ち上げたのはツマミのさきいか。私もよく食べてる。けど私はツマミなら豆がいいかなあって。
「先生ってピスタチオとか食べないんですか?」
「むくのが面倒なんだよな。バタピーとかはそのまま食べれるからいいけどよ」
「そうね。あとツマミなら塩辛とか結構好むわね」
「塩辛はご飯と食う方が好きだなあ」
ご飯に乗っけて食うのが旨い。塩辛も叔父さんがよく買ってきて食べるから私もちょっと好き。
「うちの叔父さんはコンビニのチーズタッカルビとかをつまみにして食べてますね」
「あれか! ああいう料理も合うよな。ご飯に合うやつは大抵酒にも合う。これは真理だ。覚えとけよ?」
なんかわかる気がするんだよなぁ。まあ、理由としてはご飯に合うやつは大抵味が濃いから酒にも合うんだろうけど。
「夢野は酒強そうだな」
「んー、飲んだことはないで…すけどたしかに強いかな?」
「今の間が気になるが…」
飲んだことあるわ。
白露の誕生日の時に白露の父さんが間違えて酒を出して飲んだんだ。
あれを思い出して言葉が詰まってしまった。あ、怪しまれた…。
「ま、まあ気にしないで! さ、私は行きますのでごゆっくり!」
「…お互い様、な」
「…すいませんした」
「いつ飲んだんだよお前…」
「白露の誕生日の日に白露の父さんがカルピスだと思って持ってきたのがカルピスサワーだったという…」
「あー、あるある。俺の婆さんもそうだった。ガキの頃カルピスだと思って開けたら酒の匂いがしてカルピスサワーだったんだ。それは仕方ない」
先生もちょっと笑っていた。
「…球磨川たちも飲んだのか?」
「私と月乃と白露が気づかずに…」
「はぁ…。ま、見逃してやる」
「見逃してください。あいつらには酷い目に遭わされたんで」
「酷い目?」
「あいつら酒弱いみたいで酔って投げられて肩脱臼…」
「「うわ…」」
あれはマジで痛かった。突然のことだからマジで対応できなかった。
「まじで仲良いとしてももうあいつらと酒の席で会いたくねえっ…」
「夢野、強く生きろよ」
うるせえやい。




