漠然と凶を急ぐ ②
気絶したフリをしながら私は場所を覚えた。
街の郊外にある廃屋に私は閉じ込められる。私を見張る一人、外に二人…。三人拳銃を持ってる…わけでなくこの私を見張る一人だけが持っているようだ。
ご丁寧に手には縄。だがこの結び方…簡単に解けるな。
状況判断が終わったので気がつく演技をした。
「ん…」
「おう? 目が覚めたか? 月乃ちゃんよ」
「こ、ここはどこ? あ、あなた誰ですか!?」
「静かにしろ」
と、頭に銃を突きつけられる。
さて、どう助けを求めるものか…。
「お嬢ちゃんは今誘拐されてんだ。あんたは金のための人質なんだよ。いいな? 理解力ないやつはムカつくんだ」
「…私の家の金が目当てということですか?」
「ああ。そうだ」
「いくらですか? いくら欲しいんですか?」
「そうさなぁ…ざっと三億。お前さんとこは容易に用意できるだろ?」
下卑た目を浮かべる。
私はモゾモゾと動く。
「おっと、その縄は解けねえぜ?」
残念、もう解いた。
「もう身代金は請求しました?」
「まだしてねえ。そうだなあ、お嬢ちゃんの声を聞かせて現実味を帯びさせてやるか」
よし、バカな犯人だ。
犯人は何処かに電話し始める。電話は繋がり、スピーカーにしたのかでかい音量で流れる。
月乃の声だ。
「さ、お嬢ちゃんがたった今目覚めたぜ? ほら、助けてって家の人にいいなよ」
「助けて!」
助けてといって、犯人は嬉しそうだ。私は意気揚々と電話してる犯人の隙をつき、拳銃を強奪した。
犯人は電話を落とし、こちらを見る。
「何しやがんだ! 縄はどうした!?」
「縄抜け〜。ほら、形勢逆転、いっとくけど、私は外さないからね?」
イマドキ古いリボルバー銃、弾は優しいのか知らないが六発。
私はセーフティロックを外し、引き金に手をかける。
「ほら、来なよ。私は助けがくるまで待つよ。言っとくけど私は殺すことは厭わないから」
「この…」
と襲いかかってきそうだったので太ももに一発放った。
男は太ももをおさえ、銃声を聞いた仲間が入ってくる。仲間はナイフを構えた。
「ぐおお…!」
「ほら、逃さないよ。逃げるそぶり見せた瞬間に当てるぞ」
「ひ、ひい!?」
「ほら、座って?」
と、銃を突きつけながら言うと三人は素直に座る。
「さ、残弾頂戴?」
「こ、こちらに…」
私はゆっくり銃を向けながら近づく。
一人が銃を奪い取る素振りを見せたのでまた足に発砲。男は足を押さえて痛みに悶える。
「ダメじゃないか。ほら、渡しな?」
リボルバーの銃弾が六つ手渡される。
私はそれをポッケにしまい、椅子に座った。そして、阿久津家に電話する。
すると、電話がつながった。
「こちら夢野〜。制圧完了ねー。街の郊外の廃屋だから警察連れてきて」
『え、えぇ…今から向かうとこだったのよ? 助けに…』
「ま、銃奪ったし、銃で脅してるからねー。実際撃ったけど」
『はあ!?』
「だいじょーぶ。足だから命に別状はないよ。なんかあったら金の力で揉み消しといて」
『あんたねぇ…。とりあえず向かうわよ!』
私は電話を切った。
「ゆ、夢野? 阿久津じゃないのか?」
「だから違うつったでしょ最初に」
そう言うと三人は項垂れていた。きちんと顔を確認してからやろうぜ。
ま、私一人にこんな体たらくじゃ成功しないだろうけどさ。一人だけに拳銃を持たせてたらダメだっての。いろいろとずさんだぜ?
そして数分待つとパトカーの音が聞こえて来る。
そういやノリで発砲したけど…今更なんだけど腕が痛い。反動だな。
無我夢中だったからか今更痛みがやってきた。
「パン子!」
「大丈夫か?」
白露と月乃が私に抱きついてくる。
「夢野さん。拳銃をもらうよ。なに、逮捕はしないから。殺してないし」
「よかったぁ。ほい」
「はい。ありがとう。さて、中にいるの?」
「はい。二人足を怪我してるんで抱えてってくださいね」
「わかったよ」
と、警察も笑って中に入っていく。
「誘拐された方が強いって…ぶふっ」
「こら、笑うな…」
この街の警察いろいろ緩くありません?
私は二人を離すと、パトカーの中から甲地が降りてくる。甲地はこちらに向かってくるので私はおーいと手を振ると、甲地は私の目の前に立って私の頬にビンタをした。
思わず頬に手をやり、甲地を見る。
「な、なんで誘拐犯に立ち向かったんだ! 油断してたからいいとは言え一歩間違えば死ぬとこだったんだぞ!」
「ご、ごめん…」
「こっちはゲームじゃないんだ! 死んだら生き返らない! それはパン子さん自身が分かってるだろ!」
と、甲地は怒っていた。
その通りだから反論ができない。だからこそムカつくというかなんというか…。でも、悪いのは私だ。ムカつく資格はない。
たしかに危険な行為だったのは認める。ただ、殺すことはないと思ってた。人質は生きていてこそ利用価値があるからな。
「武宮…そこまでいうこと…」
「そこまでにしなさい」
「止めなくていい。悪いのは私だ。たしかに危険な行為だったんだよ。怒られて当然」
「俺たちやパン子さんの叔母さんたちが心配してたんだよ! その心配を裏切る行為をするな!」
「……ごめん」
私はただ謝るだけだった。
「…俺はもう帰るよ。生きててよかった」
「うん。甲地、ごめん」
甲地は振り向かずに走って帰っていった。
ところで水を刺すのもあれなんだけど。
「甲地の家ってこっから遠いのに走って帰るの?」
「反省してないぞコイツ」
「もう呆れるしかないわね…」




