漠然と凶を急ぐ ①
九月でも暑いもんは暑い。
私は帰り道にコンビニに寄ってアイスを吟味していた。
考えごとをするなら甘いものが必須、それにまだ暑さも残るのならば冷たい物を欲する。
なら何を買うか? アイスだ。
「どれにしようかなー」
私がアイスの売り場で眺めながら選んでいると、私の頭に何か当てられる。
横を見ると何やらピストルのようなものだった。
「阿久津 月乃だな?」
「…違いますけど?」
「嘘をつくんじゃねえ」
と、その瞬間、何かを口元にあてられる。
私は息を止めるが、そんなに長い時間息を止めることもできない。
阿久津 月乃つったな。月乃を誘拐して身代金を強請るつもりだったな? マジであるんだなー。
とりあえずどうにかして脱出しないと…。
やべ、息が苦しい…!
☆ ★ ☆ ★
夜、私のところに一本の電話が届く。
「月乃様ー? 夢野さんって人からお電話ですー?」
「パン子?」
パン子がなぜ私の携帯じゃなく固定電話に?
意味がわからないが私はとりあえず子機を使用人から受け取り、読んでいた小説を閉じる。
「なによパン子…」
「あ、眠じゃなくて叔母ですが」
「あ、パン子のおばさんですか? どうしました?」
「眠が帰ってなくて…。なんか知りませんか?」
「パン子が? うちには来てませんけど」
「そうですか…。夜分失礼しました」
と、私は電話を切る。
パン子が家に帰ってない?
私は疑問に思いつつ使用人に電話を渡すと突然扉が開かれた。開いたのは父さんだった。父さんは何か焦った様子で。
「月乃は帰ってるか!?」
「あら、なによ。いるわよ」
「…え?」
「なに? そのなんでいるのって顔…」
「さっきお前を誘拐したって電話が会社にかかってきてな…」
「……」
もしかして。
パン子、もしかして…。
「父さん、多分誘拐されたのはパン子よ…」
「なんだと?」
そうとしか考えられない。
パン子は一度家に帰る。遊ぶとしても。制服のままで遊ぶなら連絡入れるはずなのだ。
もしかして私とパン子を勘違いして誘拐したの…?
「なんで眠ちゃんを狙った?」
「あー…あいつたまに私の名前を悪用して…」
「……」
自業自得感がすごい。
が、悠長にしていられない。と、その時、白露から電話が来る。
私は電話をとると白露は何やら焦っていた。
『月乃! パン子が拐われたらしいぞ!』
「ええ…」
『目撃者によると拳銃を頭に突きつけられて薬を嗅がされたそうだ…』
拳銃…。
私はその言葉を聞いて深刻なんだと悟る。ナイフ程度ならまだいいかもしれないが拳銃…。
「白露! 顔は見たの!? どこに連れ去った!」
『わからん! 車を使ったみたいでどこに逃げたかわからんが車のナンバーは…』
ナンバーを聞いたが…。
『封印がされてなかった。あれはおそらく盗難車だろうと父が言っていた』
「なるほどね…。自分の車を使うバカはいないわね」
『ああ。それに、阿久津家を狙ったとするなら単独犯ではないだろうということだ』
「……私のせい?」
『違う。巻き込まれたのはアイツが月乃の名前を使ってたのも一因だ。気に止む必要はない』
私と付き合っているから狙われたのだ。
付き合いは選ぶべき、というのはこういうことね…。
どうする? どこにパン子はいる?
「とりあえず白露! うちに来なさい!」
『わかった。だがあまり急ぐなよ。あんたが焦るとある意味犯人のツボだからな』
「わかってる!」
『本当にわかってるのか? まあいい。私も向かう。ちょうど向かってる最中だ。武宮と一緒にな』
と、電話が切られる。私はベッドに携帯をぶん投げた。私のせいだ。私と付き合ってるから巻き込まれたのだ。
もっとパン子たちも用心させなきゃならなかった…! 私だけはされないと油断していた。それが招いた結果だ。
「つ、月乃様…」
「なによ」
「ひっ…」
「…月乃」
と、父が目を細める。
「お前は悪くない。犯人が悪いんだ」
「わかってるわよ!」
「…はぁ。そんなに気に病むならお前が解決したらどうだ?」
父さんがそんなことを言った。
「相手は拳銃を…」
「人質は生かしておいてこそ価値がある。それに、そう簡単に眠ちゃんは殺されるようなタマじゃない。きっと眠ちゃん自身が拳銃をどうにかするさ」
「…なんでわかるの?」
「眠ちゃんは強い子だからだ」
父さんはそう言い残して部屋から出ていく。
「…私たちで解決」
こうなった責任は私にあるから…。やるしかない。




