夏休み初日の絶望
第二王子が帰っていってしばらくはなにもなく、そろそろ夏休みに入る七月になった。
「で、夏休みイタリアに行くんだけれどどうかしら?」
「パスポートない」
月乃にそう誘われる。
イタリア。今からイタリア語でも勉強しておくか? どうせ将来使わないだろうけど。いや、勉強して損はないしな。
でもあまり海外に行きたくないんだよな。
「私はいいや。海外怖いし」
「そもそも私たちパスポートないからな」
「そっか。なら国内にしようか? 有名どこなら北海道とか沖縄とか」
「そもそも私おじいちゃん家にいかないといけないからきついかも。小3から一度も行ってないし」
「お姉ちゃんのお見舞い?」
「んー、それはない」
正直行きたくないというのが本音だ。
私の姉の事だからもうとっくに立ち直っているだろう。あの姉で立ち直れないということは相当なことだと思うし。多分一年くらいたって前向きになれたんだと思う。
けど……姉ちゃんうるさいんだよなぁ。怒ってるんだろうなぁ。なんで会いにこないのかって。嫌だなぁ、憂鬱だなぁ。
「行きたくないなぁ……」
「パン子がそこまで行きたくないとは……」
「あのメンタルが滅茶苦茶強いパン子ですらそこまで?」
今でこそめちゃくちゃ憂鬱です。
夏休み入ってすぐに行く予定だからな。
でまぁ、時間が過ぎるのは早いもので。夏休み初日。
私は電車に乗り、バスに乗り継ぎ、田舎までやってきた。辺りを見回すと田園風景。田んぼに入って作業している人もいれば自転車にまたがってどこかに行く子供もいる。
私は、ゆっくりと遅くつくように歩いていた。
その時だった。
「いでっ」
左から何かが飛んできた。
野球ボールだ。痛さが残る脇腹をさすりながら野球ボールを拾う。
「すいませーん! 剛速球がいきませんでしたかー?」
「強く投げすぎなんだよ瑠衣。ノーコンなんだから強く投げるなって」
と、中学生くらいの女子と高校生くらいの男性がでてきた。
「あれ、ここらへんじゃ見かけない顔だね? どっからきたの? 引っ越し?」
「いや、おじいちゃん家に来ただけだけど」
「へぇ。ここら辺に住んでるの」
「夢野っていうんだけど」
「……あー、あそこの」
男性がなんか嫌なような顔をした。
「もしかして姉ちゃん知ってる?」
「名前によるな」
「沖っていうんだけど」
「二個上の先輩だ。よく振り回された」
ため息をつく男性。
「あの横暴なやつはどうかしてるよ。同じ田舎に住んでるからってめちゃくちゃ振り回すしいじめてくるし困った奴だったよ。あの女を好きになるとかどういう神経してるんだろうね」
「あら、楽しそうな話してるじゃない?」
「「げっ」」
私と男性は私の背後を見ると。
「久しぶりね、眠ゥ……。ほんと、なんで会いに来なかったのかしら」
「お姉ちゃん……。じゃ、私帰るね」
「せっかく来たんだからゆっくりしていきなさいよ。積もる話もあるだろうしね……?」
「ひえっ」
拝啓 月乃様。白露様。
私、死にそうです。 敬具。




