三人の将来設計
殺されかけた時、何を思うのだろう。怖いとか思うのだろうか。普通は思うわな。私はそんな恐怖心は微塵も感じない。ここで死ぬならそこまでだし、死ぬのに未練はない。
「筋トレでもしよーかなー…」
「柄にもないこと珍しく言うわね」
「いや、力負けしちゃったし」
「男に力でかなうわけ無いじゃない」
まあそりゃそうなんだけどさ。
でも私が筋トレしてもどうせ三日坊主で終わるだろうしやらないでいいや。
「それにしても白露マジでキレてたな」
「笑うんじゃないわよ。私も結構ガチで怒ってるわよ?」
「そこまで私のことを大切に思ってくれてるの?」
ふざけて聴くと、マジな顔で頷かれた。
お、おおう…。むず痒いぞ…。
「あんたも私が殺されかけたらガチでキレるでしょ?」
「うーん、たぶん?」
「自信なさげね」
「自分がガチでキレるのが思い浮かばないってか…」
自分でいうのもなんだけど結構怒りにくいほうだ。ガチでキレたことはほとんどない気がする。いや、一度だけあるな…。うちの親を騙した人たちに対してガチギレしてたな。
「まあいいわ。パン子もきっとそうだと思うわよ」
「そうかねえ…」
すると外でサイレンの音が聞こえる。
どうやら警察が来たようだ。
親子を引き渡し、私も事情聴取があるとかでついていく。
事情聴取が終わったのは午後11時くらいだった。
「ったく、せっかくの別荘だってのに…」
「そうね。初っ端から散々な目に遭ってるわね」
「自殺を助けたり殺されかけたりよお〜…。私がいくとこいくとこ災難にあいすぎなんだよなあ」
「今年はなんていうかパン子不運ねぇ」
そうそう。本当にどこもいけねえよ。
帰り道は歩きだ。警察の人に送ってくとも言われたが、散歩がてら歩いて帰ることにした。
「どんな災難でも星は綺麗だな」
「そうね…。七夕はもう少し先だけど…」
しみじみと二人が星空を見上げる。
今日は雲が一つもなく快晴だった。天の川が空に流れており、夏の大三角形が強く主張している。
私たちが住む街でもこんな景色は見れるが、やはり田舎ほど星が綺麗に見えるところはあるまい。
「やっぱ今が楽しいな。昔、月乃もパン子も遠ざけようとしていた自分を殴りたい気分だ」
「どうせ今じゃなく未来も一緒よ。そんな感慨深く…」
「いや、パン子は海外行きそうだからな」
「いや、いかねーよ…。英語喋りたくないし」
「あら、英語は大事よ? グローバル社会においては必須ね」
大企業の社長の娘が言うから説得力はあるけど…。面倒なんだよ。頭の中で翻訳してとか。ネイティブじゃねーんだよ。そんな発音よくできねーって。
「将来どうするかなんて私は全然決まってないよ。どうしようか悩んでる」
「私は会社を継ぐから考えるだけ無駄ね。やりたいことはないし」
「私も柔道で食ってくぞ。それしか能がないからな」
うわー、二人とも将来やることあんのかよー。私だけ全然ないんだけど。
なんでも器用にやれるからこそ何にもできないってかなー。やる気でねえんだよな。誰かに従うって言うのが基本的に嫌だし。
「将来設計私だけなんもないの…?」
「そうなるな」
「すっげえ置いてきぼり感半端ねえ」
「ま、見つかるんじゃない? パン子の場合株取引だけでも食っていけそうな気はするし…」
株はデリケートだからなぁ。
手出ししづらいっていうのがある。叔母さんたちに株とかいうと心配しそうなんで手出ししないでおいたが…。
「ただの平社員ってわけにはいかないだろパン子は。コネ使って月乃の会社にいくのか?」
「そうだな。それがいい」
「コネ入社って嫌われるのよ…」
まあ、面接とかでなんも苦労しない分頑張って入った人には嫌われるだろうな。
「ま、いいさ。将来のことは将来の自分がどうにかしてる。寒いから早く帰ろうぜ…。くしゅんっ」
「「うわ、可愛いくしゃみ!!」」
可愛いくしゃみして悪いか?




