死にかけのパン子
二人の会談も終わったらしく、私は海に送っていき、ログアウトした。
まだ夜の7時だが眠い。寝足りないようだ。
「おやす…」
そのときだった。
一階の方ですごい物音が聞こえた。私は思わず起き上がり、部屋を飛び出して玄関の方に降りると使用人さんが美園とその家族に絡まれていた。
「月乃を出しなさい!!」
そうわめく彼女たち。
ああ、あの男が名前バラしたのかな。美園の隣には篠崎が申し訳なさそうに立っていた。
「訴えてやる! 名誉毀損で!」
「ならこっちは虐待で訴えますけど」
私は階段を降り四人の前に姿を現した。
篠崎はひっ、という声を出し怯えている。三人は私を睨んできた。
私は精一杯の笑顔を作る。
「どうでした? 私はなーんにもしてませんよ。ただあなたがたがやったことを全て言っただけですから。名誉? あなた方に誇れる名誉なんてあるんですかねぇ」
私はニヤニヤしながら言うと美園が私の胸ぐらを掴む。
私はニヤニヤするのをやめ、見下した。
「謝れ」
「謝ったら許してくれるの?」
「美園、どけ」
と、美園は素直に手を離し、耕作が私の腕を掴む。
痛い。男の力に敵うわけがない。
「なに? 私を殴るの? もう後戻りできないもんね。殴っても殴らなくても同じだもんね。じゃあほら殴りなよ? 私は怒らないから」
「殺してやる…!」
「殺す、殺すねぇ」
と、私の首に男の腕が伸びる。
使用人は引き剥がそうとしているが母と美園に邪魔されて助けられないようだ。
苦しい。息ができない。このままだと数分で気を失う。その前にどうにかしなくちゃなあ!
私は手でチョキを作り、そして、血走った男の目に刺した。
男は手を離し、目を抑える。
「必殺目潰し!」
私は使用人さんの手を掴む。
「上で白露と月乃がゲームしてるんです。体を触ってログアウトさせてこさせてください。急いで。私が相手します」
「でも…」
「白露さえ呼べばいいです。はやく!」
「わかりました!」
使用人さんは急いで駆け上がっていく。
私は男の家族の方を向いた。血走った目で私を捉える三人。
「殺してやる!」
「協力するわ!」
美園と母親が私の手足を抑える。
そして、男が私に馬乗りになり、首を絞めた。力強く絞め、意識が飛びそうになるがなんとか堪えていた。
白露、はやく来い。
すると、男が横に吹っ飛んだ。
「遅くなった。悪いなパン子」
と、白露が現れた。白露の目は鋭く、冷徹な目。声も低い。ブチギレているようだ。
私は首を押さえ立ち上がる。
「遅い…ぞ。あー、くるし」
「お前らもパン子を離せ」
と、二人が従って離そうとするが。私は抑えていた腕をがしっと掴んでやった。
「白露ー、離してくれませーん」
「そうか」
白露はまず美園の腕を掴む。
「殺すとか聞こえたぞ」
「いだいいだい! やめてえ! ごめんなさい! 許してえええ!」
力いっぱい握っていた。白露は聞く耳を持たない。怒りで前が見えていないようだ。
「歯を食いしばれ」
白露は思いっきり美園をぶん殴った。美園の鼻が曲がり、気を失う。
続いて母親を白露は立ち上がらせると、鳩尾に拳を沈めた。母親は胃液が逆流してきたのか、口から液体を吐く。
「なんも特訓もしてないお前らが私に敵うわけないだろボケが。なあ?」
白露は美園の父の上にのっかり、胸ぐらを掴む。
「ひいいい!?」
「みっともないな。それでも男か?」
男は鼻から血を流し、白露に怯えている。
すると、階段を降りてくる音が聞こえてきた。階段を振り向くと月乃が立っている。
「なんの騒ぎよ…」
「月乃。昼間の奴らが突撃してきただけだ。パン子が殺されそうだったんで全員気絶させておいたぞ」
「手際がいいわね…」
あー、死ぬかと思った。私って恨み買いやすいんだなー。反省するよ。
ったく。追い詰められた人間は何するかわかんねーなー…。
「とりあえず警察呼ぶわ。逃げないように部屋に閉じ込めておきましょう。白露、監視を頼むわね」
「まかせろ」
ふぅ。ま、こういうやつらはろくな結末にならないのはわかってるんだ。
私も私でろくな死に方しないだろうけどな。ったく。首に跡残ってねーよなー…。
「パン子、手当てするから来なさい」
「そうだね。いってー…」
「無茶しすぎよ…。あと、月乃を出しなさいって言ってたらしいけど私は面識ないわよ」
「…あはは」
「また勝手に名前使ったのね…。ったく、ろくな使い方しないのね」
「ごめん。相手を釣るには月乃の名前が一番なんだよ」
「それもそうだけど…」
月乃が金持ちなのが悪いんです。
あー、疲れた。




