第二王子を追い返そう
第二王子がにやりと笑った。
魔王殺しの異名を手に入れたいのだろうか。だけれどそんなことはさせるわけがない。私の友達を殺したら……私がアデュランを殺す。
私が懐からナイフを取り出すと、第二王子は脅すかのようにワグマの首元に剣を突きつける。
「……ちっ」
一歩でも動いたら殺すぞと無言で言っている。人質か。
第二王子のくせにこっすい手をつかいやがって。私が動けないでいると、ワグマが第二王子の足を払う。いきなりの攻撃で対処できなかったのかアデュランはそのまま転んだ。
そして、大剣を突きつけるワグマ。
「形勢逆転ね」
そういって彼女は笑ったのだった。
つえー。
「第二王子アデュランって言ったかしら。剣の腕はそれほどないようね。こんなにも隙だらけなんですもの。もうちょっと勉強してきたらどうかしら?」
「……魔王のくせに俺を脅すっていうのか?」
「あら、そのセリフそっくり返すわよ」
さっきまで脅していた奴が何を言うか。
ワグマが楽しそうに笑う。彼女も優しいとはいえ本質的には私よりの人間だ。類は友を呼ぶというが私たちはその類。
ワグマもこういったことに愉悦を感じるタイプのやばい人だ。
「その程度の実力で私を討とうとするつもりだったのかしら。舐められたものね。仮にも魔王ですもの。そんな簡単に死んでやらないわよ」
「ちっ」
「第一王子が辛そうな顔をしていたから今まで無抵抗だったのよ? でも、やっぱダメね。危険因子は排除しておかないと……後々困るものね」
大剣に力を込める彼女。
ワグマは楽しそうに笑う。いや、嗤う。その嗤いが相手の自尊心を大きく削ったのだろうか。歯ぎしりをしているアデュラン。
思い通りにならなかったことへの不満だろうか。それはそうだ。思い通り動くわけがない。いくらAIといえど現実をモチーフにして作られたものだ。現実はそう甘くないってことだ。
「魔王はおとなしく俺に討伐されてりゃいいものの……! 今日のところはひきあげ」
「なに帰れると思ってるの? 私に手を出したのよ? そうやすやすと帰すわけがないでしょう」
「魔王如きが俺を引き留めようと」
「魔王如きに負けてるくせに如き呼ばわりとは気に食わないわね。殺そうかしら?」
「なっ……!」
「いいね。第二王子を殺してゾンビとして復活させる? エディットに頼めばできそうだし。ただ、自分もモンスターになるから王国には帰れないだろうけどね」
私が同意すると、アデュランは顔を青く染める。
殺しをすると面倒なことになるけど……そこは私が何とかしよう。殺すなら殺してもいいし。というか、殺すべきだ。
「お前ら二人楽しそうだな」
「ビャクロ煽ってやんないの?」
「私は勝負は正々堂々とするタイプだ。精神攻撃はしないし、させない」
「スポーツマンシップってやつ?」
「で? 結局はあいつを殺すのか?」
「ワグマに任せる。あとのことは私がやるし」
「事後処理はパンドラか。なかなか下っ端根性しみついているな」
「うっせ」
ワグマもこういうことはできるだろうけど、私みたいに深くは突きつけないというか、メンタル面を傷つけて再起不能にさせないタイプだ。
いざとなったら慈悲をかけてしまう優しいタイプ。敵対するものには容赦ないけど。
「……いいわ。帰してあげる。でも、覚えておくことね。いつでも私は貴方を殺せる。それを承知の上でまた愚かな行動に出てきたら今度はこっちから出向いて殺してあげるわ」
そういうと首が少し切れる。
その血をぬぐった手を見て第二王子がこくこくと頷いた。
結局は殺さなかったか。まあいいだろう。
第二王子たちは帰っていった。
「はぁ……。疲れた」
「お疲れ」
「お疲れさん」
私たちはワグマの肩を叩いた。




