国王と人魚女王
マールダウン女王は悲しげな顔をしていた。
「私が生まれる遥か前の魔王…。その魔王は突如人魚の国に来た。人魚は女だけでいい、男の人魚はいらない、というだけで皆殺しにしていった」
マールダウンの口調はとても寂しげで。
「呪いをかけられた。女しか生まれなくなり、女で生殖行為を出来るという呪いを」
なるほど。その呪いが未だに続いているのか。それにしても酷い私欲だ。その自分勝手のために男を皆殺しねぇ。私もちょっとドン引きだわー。
別に男の人魚がいても仕方ないだろう。なに? 人魚は女しかいないっていう思い込み?
「その時の人魚の国は赤く染まっていた。血で深く染まって…」
「男の人魚も結構な数いたんでしょ? となるとほとんど真っ赤だろうね」
「ああ。ま、こういう事件があってボクたちはあまり魔王が好きじゃないんだ」
魔王に同胞を虐殺されたのなら無理はないと思うがな。むしろ悪いのは魔王だろう。そら恨まれても当然だねえ。
「こりゃ人魚の国では魔王軍ってことを伏せたほうがいいな」
「そうね…」
それにしても気になることはあるな。話を聞くと。少しばかり違和感がある。
どこに違和感があるかは明白だ。
「魔王はもしかしたら元日本人かもな」
「え? なぜそう思うのよ」
「だって人魚なんて存在するの知らなかったんだぜ? この世界の人は。なのになんで魔王は人魚は女だけでいいっていうんだよ。あたかも人魚を知ってる風だろ?」
人魚を知っている。
この国のレオンですらいるかいないかわからなかったのに人魚はいると断定していた魔王。
女だけでいいというのはもしかすると…。
「童話のマーメイドみたいにしたかったのかもしれないね。だから男が邪魔だったんだ」
「マーメイドって…男の人魚出てこないしそもそも主人公以外の人魚出てこないじゃない」
「だからこそだよ。マーメイドのせいで人魚=女って捉えられたんだ。ひっどいエゴイストだよその日本人」
日本人やらかしすぎだろ。異世界転生物のラノベ然りなにかしないといけないのかよ。
ま、異世界行って簡単に人を殺せるぐらいだからどこか頭のネジ外れてるのかもな。
「もういいだろう。それよりマールダウン国王か。先程は槍を蹴飛ばしてすまないな」
「王に剣を向けられたら反撃するのは仕方ないよ。こっちこそごめんね」
「ああ。そちらも理由が理由だ。仕方ないだろう」
なんていうかあっちで和解してる。
「よーし! 気を取り直して観光するぞー!」
「ちょ、陸では移動できないんですよ女王様!」
「しょうがないなー」
私は以前と同じように水球を浮かせる。アルファリアが海からジャンプし中に入る。
そして、マールダウン国王を引っ張り上げていた。
「おお! メルセウス様の眷属すげえ! 水を意のままに!」
「ありがとさん。とりあえず王城いくか」
「急な訪問ね…。普通はアポイントメント取らないとダメなのに…」
「ダイジョーブ。急な訪問はいつものことだから」
「急な訪問はいつものことだが度々忍び込むのはなぜだ…」
と、目の前でレオンが頭を抱えていた。
いや、忍び込むスリルが面白いんだよ。見つかった時とかすごい面白いの。
最近の王城の人は私の顔を覚えたからか顔見たらなんだお前かといって素通りする。それでいいのか。
「で? そちらの人魚は?」
「レオン疲れてるの?」
「ああ。最近ろくに眠れてないんですよ。人魚について知っておきたくて」
「勉強熱心だね」
「もちろん。いつか私も人魚の国に行って国王にあって話をしてみたいので」
私にはすっかり素を出してくるようになったな。国王口調ではなく、レオンとしての口調で言ってくるあたり気を許してるのだろう。
「ああ、紹介すると、その人魚の国王」
「ぶふっ」
「うわ、レオン汚ねっ! 唾飛ばすな」
「あなたが国王様ですね。ボクはキャラメリゼ・フォア・マールダウン。マールダウン国を統べる女王でーす。結構人魚の国はゆるゆるなんで口調とかそんな気にしないでいいですよー」
「パンドラ…。なぜいきなり国王との対談をっ…」
「いいでしょ? 人魚好きだって言ってたしこっちとしても王に会わせないってのは問題があるなーって」
「それもそうですがっ…」
「ほら、謁見の間の護衛はしてあげるから二人で話しな」
といって二人を謁見の間に残し外に出たのだった。




