国王と魔王の交差
起きたのは10時だった。
目を覚まし、ヘッドギアを手にする。電源を入れ、そのままログインした。
ログインすると、通知欄にフレンドからメッセージが届いていた。ジンさんからだ。
「きっと出来上がったんだろうよ」
内容も出来上がったからすまないが取りに来てくれということだった。
私はクレイジークレイジーに赴くと、誰もいない。マクロさんとジンさんは立っていたが。
「待ってたぜ」
「ま、今日はいろいろ話もあるし休みにしたのよ。こっちきて」
と、部屋に案内される。
襲われるのだろうか? 誰もいない店内で襲って私にあらぬ濡れ衣を?
と思いつつ部屋に入り、ソファに座らされる。
「まずは水圧無効の装備、四つでいいのよね。それぞれカラーバリエーションとかつけたから好きなの選んでちょうだい」
よく見ると動きやすそうな布製のもあるし、鎧のようなものもある。
これ本当に大丈夫なのだろうか。特にこの布製のものは…。これに鉱石必要なの意味わかんねえ…。
「ま、ワグマ以外はこの布製のものでいいけど…」
「そう。じゃ、あげるわね」
「費用は?」
「あんだけ鉱石もらって金貰えないわよ。まだ有り余ってるわ」
「そう? じゃ、ありがたく」
私はイベントリに装備をしまう。
「それでお話って?」
「あー、簡単よ。その、私ともフレンドになってくれないかしら」
「そんなことですか?」
「え、ええ。あまり私はフレンド交換はしたくないけどあなたに頼みたいことがあったら頼めるし」
「いいですよ」
私はマクロさんにフレンド申請を送った。すぐに認証されたようで、フレンド関係となる。
すると、ジンさんが耳打ちをしてくる。
「マクロの姉さん友達ができないんだ。本人自覚してねーのかどぎつい性格でよー。正しいことでもすぐ口に出しちまうから…」
「変に正義感を出すやつですか」
「少し程度ならいいがそういう注意ばっかするやつって嫌われるだろ?」
まあたしかに嫌がられるかもな。注意された方も悪いことをしてる自覚があるからこそウザいと思うし繰り返す。
「だからよー、俺以外あんま友達いねーのよ。マクロ姉さんの誘い受けてくれてありがとな」
「いえいえ」
いい舎弟じゃないか。
「ジン! こそこそ何を話している!」
「なんでもないぜ! と、とりあえずフレンドおめでとう! パンドラ、また仕事があったら頼むな! これからも贔屓にしてくれよ!」
「あ、うん」
「じゃ、用事があるから!」
と言われ部屋から追い出される。
中からは。
『姉さん、喜びなら俺が聞くんで飲みにいこうぜ。パンドラがフレンドになったのが嬉しいのはわかるがよぉ、どんびかれるぜ。そのニヤケ顔』
『朝まで飲むぞリアルでな!』
『ちょ、ゲームの中で! 姉さん酒弱いっしょ! すぐ酔い潰れるのがオチじゃねえか!』
ジンさんも苦労してるんだなー。前のマクロさんは恋する乙女だったのに今はぼっちキャラ…。キャラの内容だけは濃いな。
とりあえず魔王城に戻って装備を渡そう。
魔王城に戻ると、ワグマからフレンドメッセージが届く。
海にいるということだ。どうやら人魚が来ているらしい。というので向かってみると…。
「パンドラ様。申し訳ありません…。我らが女王が…」
「すごい緑…! ボク感動したよ!」
と、頭に王冠を被り、目を輝かせているのは多分マールダウン女王だろう。まさかのボクっ子。
隣に立つアルファリアはなんだか疲れていた。
「やあやあ!君が国王? ボクはマールダウン! 人魚の国の女王だよ! ニホン国も女王なんだねえ」
「違います。この方は…」
「違うの? じゃあこっち?」
と、ワグマを指差す。
「私は魔王よ。国王ではないわ」
と聞くと、マールダウン国王とアルファリアさんがワグマに槍を突きつけた。
二人はワグマを睨んでおり、ワグマは何が何だか分かってない模様。
「なによ、や、やるの?」
「魔王…魔王はいてはいけないんだよ」
冷ややかな声。その冷ややかな声は辺りを冷たくさせた。
すると、ビャクロがその槍を蹴り飛ばす。
「おい、初対面で凶器を向けるとは無礼じゃないか? 相手になるぞ」
「…マールダウン様。あのお方相手では敵いません」
「二人ともそう怒らないの。魔王と何があったかは知らないけどさー」
「……」
「それに、私だって魔王軍なんだよ?」
そういうとアルファリアは驚いたような顔をしていた。
「アルファリア。私を攻撃するの? そもそも、出来るの?」
「ぐっ…」
「出来るわけはないよな。私に攻撃は」
「アルファリア! 魔王軍を討つよ!」
「こ、国王様。それはできません!」
「な、なぜっ…!」
「パンドラ様はメルセウス様の眷属であらせられるからです!」
「は?」
と、大声で言うとマールダウン国王は驚いたのか、素っ頓狂な声を出していた。
「待て待て、魔王軍になぜメルセウス様の眷属がいる! 魔王軍は悪だろう! なぜ眷属様がっ…!」
「ま、魔王軍はそれほど神に信用されてるってこった。マールダウン国王。私と本当に戦う? あなたがたが信仰している神様の眷属を傷つける?」
こいつらのメルセウス様への忠誠はホンモノだ。だからこそ傷つけられない。メルセウス様が大事だから。
「無理、だ」
「でしょ? だから素直に私たちを信用しなって。人魚の国をどうこうしようとかそんな大それたこと考えてないからさ」
「…アルファリア。お前はどうする? 信用するか?」
「…私は、信用してもよいかと。実際、メルセウス様は眷属だと言っておりましたので眷属であるのは本当です」
「…そうか。非礼をお詫びする。我ら人魚は長年魔王によって苦しめられていた」
ま、魔王に恨みを抱くとすると魔王が人魚の国に手を出したという確率が高い。
先代魔王が手を出したのだろうか。人魚の国をどうしようと言うのだろう。いや、そもそも人魚の国自体謎が多い。なぜ男の人魚はいない? オスとメスがいてこその生殖活動だ。女が男に変わるなんてのはあり得ない。
「…魔王がやったことってもしかして」
「パンドラ、何か気づいたの?」
「人魚の国には男がいないんだ。これってよく考えるとやっぱおかしいよなーって思ってさ。魔王軍がしたことってもしかして人魚の殺戮じゃないの? 男の人魚を何らかの理由で殺しまくった、とか」
私がそう言ってマールダウン国王をみると否定しない。正解か。
「人魚の男を狙う理由ってなんだろうな。人魚を殺してどうするつもりだったんだろうな」
「単に自分のため、だね」
マールダウン国王は昔のことを話してくれるようだ。




