自殺少女の理由
女性はすやすやと眠っている。
私はロッキングチェアに座り、女性の額を触って体温などを確認していた。
「夢野様…。あとは私どもが見ておりますから…」
「いや、いいよ。使用人さんの方が寝なよ。私は徹夜余裕だし」
「ですが…」
「寝不足で月乃の期待に応えられないほうがまずいっしょ。いいよ」
といって、月乃の使用人を下がらせる。
現在の時刻は夜中の二時。寝てるときはこういい顔をして寝るのに、あの時見た顔は思いつめていたような顔をしていた。あの顔は死ぬ前の顔だった。
「ったく、初日からこんなんかよ…。先が思いやられるわ」
そういいながら、私はロッキングチェアに揺られ、そのまま朝まで待っていたのだった。
ロッキングチェアに座り、ゆらゆら揺れながら小説を読んでいると、目の前で音が聞こえる。目を上げると、シーツを持ち上げ、こちらを怯えたような目で見る女性の姿があった。
私は本を閉じる。
「こ、ここはっ…」
「あの世?」
「し、死んだんですか? 私は…」
「嘘だって。死んでないよ。ここは私の友達の別荘かな」
「別荘?」
「ま、とりあえず目が覚めたんなら事情を話してもらおうか」
私は小説を机の上に置いた。
私は問い詰めるような視線を向けると、その視線に耐えられないのかすぐに口を開いた。
「私には…彼氏がいたんです」
彼氏、彼氏ねぇ。
彼女は痣を痛そうにさすっている。痣の状態からして昨日つけられたと思っていいだろう。
「彼氏は…とんでもない最低男でした。気に食わないことがあったら殴る…。私を金づるにする…。私の名前を使って借金までしてたんです…」
「ふぅん」
「それ…で、昨日別れ話を切り出したら殴られて…。私はそのまま逃げ帰ったら親に説教されて…。私の彼氏は私の親の前では猫被ってなんで別れたの、と。最初からあんたには期待してなかったとか言われ、て…」
と、女性は泣き出す。だが、私は問うのをやめるつもりはない。辛いことを思い出させないほうがいいというだろうが、そんなのは私にとっては関係ない。
どこかで無理をしなくちゃいけないのに、乗り越えなくちゃならないのに、後回しにする必要はない。私には人の気持ちなんてさっぱりわからないんだ。
「それで…私は家を飛び出してきて、行く当てもなくて…死のうと思ったんです」
「ありがと。ま、大体は事情分かったし行くと来ないならここにしばらくいなよ。いいでしょ? 月乃」
と、扉の影からこっそりのぞいていた月乃に声をかける。
「気づいてたのね」
「そりゃ扉が開く音が聞こえたからね」
月乃は女性に近寄る。
「はじめまして。私は阿久津 月乃。あなたは?」
「えっ、あっ、美作 青空、です」
「そう。ま、家に帰りたくないならここにいなさい。帰りたくないでしょ?」
「は、はい…」
「ならしばらくの滞在は許可するわ。存分に楽しみなさい」
と、月乃が仕方ないなといわんばかりに許可していた。
「ありがとう、ございます…」
「ま、少しぐらい使用人の手伝いはしてもらうわよ。無条件で置くわけじゃないからね」
「それでもお願い、します…」
といって、月乃に頭を下げる。
月乃は私の手を引っ張った。部屋の外に連れていかれると、月乃は私の方を見据える。
「で、どうする? このままじゃいけないわよね。パン子、どうにかできない?」
「報復ぐらいなら余裕よ。彼氏の個人情報とかは知らないからあとで聞きだせば。少し法律には触れるかもしれないけどね」
「両親の住所ならわかるわよ。この島に美作って苗字は一軒しかないわ」
「そう? じゃ、両親にでも一発食らわせとくか」
私は計画を練ることにした。




