赤ちゃんの名前
私たちが待っていると中から産声が聞こえてくる。
そして、看護師さんが赤ちゃんを抱きかかえて出てきた。
「可愛らしい女の子が産まれまし」
「やっったああああああああああああああ!!」
と、叔父さんが年甲斐もなく喜び駆け回っていた。
たんたんとんとんと小気味よく奏でられる足音。恥ずかしい面もあるが、嬉しいのもよくわかる。
「落ち着いてください!」
と、叔母さんがベッドで運び出される。すごい汗をかいており、息切れをおこしていた。
でも、私と叔父さんを見て、親指を立てる。叔母さんはそのまま病室に運ばれたのだった。
病室で、叔母さんはベッドに寝ていた。
隣では生まれたての赤ちゃんがいて、すやすや眠っている。
「う、うおお…」
「眠、名前は?」
「あ、えっと、白夢って名前に…」
「いいわ。白夢。この子は夢野 白夢よ」
満足そうに頷く二人。
よかった。知恵を借りておいて。
「あっ、目を開けた」
「……」
「眠は緊張してるの?」
「いや、慣れないなって」
私の下には誰もいなかった。お姉ちゃんはいたが、妹はいない。お姉ちゃんってこんな気持ちなのか? 私にもついに人間の感情が…って私は人間じゃい。
だが、なんていうかむず痒い。
「私に似てろくでなしにならないといいけど」
「あんたも充分立派よ。家事だってやってくれてたじゃない」
いや、そうなんだけどさ。
うーん、この子は私に似ないで順風満帆な生活を送ってほしい。親をなくすとかそんなことは起きないでほしい。
「…眠にもこれから迷惑をかけるわ。育児に専念するから家事をやってもらいたいの。ごめんなさいね。私がやるって言った矢先に」
「気にしない。もともとやってたし育児の方が大変なんだから」
「お、俺も手伝うから。な?みんなで育てて行こう」
「あなた…」
「…私帰るね」
二人のラブラブ空間に私はいらないと思うんだ。
私は病室を背にし、階段を下りようと足を出すと思い切り踏み外して踊り場まで転げ落ちてしまった。
「おねーちゃん大丈夫!?」
「ちょ、ちょっと大丈夫ですか?」
「全然余裕…」
私は少し痛む体を持ち上げる。
駆け寄ってくれた親子にお礼を言ってまた下りようとするとまた踏み外して転げ落ちる。
「ちょ、大丈夫ですかー!?」
「全然余裕っす!」
「おねーちゃん体痛くない?」
「大丈夫!お姉ちゃん頑丈なのが取り柄だから!」
実際にアザは出来ていない。
身体は痛むが立ち上がらないというほどでもない。
でも一日に二度も踏み外すとかついてねえ…。
災難な日は私には結構ある。厄災が私の周りを彷徨いてるっていうか…。
「私には幸運に恵まれるということがないのかっ…」
どこかしら出かけるたびに怪我を負ってる気がする。スケートをしに行った日には白露のスケート靴がお腹にぶち当たるし帰省したら殴られるし私は出かけてはいけないっていうのか…?
「まったく、こんな災難ばっかじゃどこにもいけやしない…」
コレばかりは誰かのせいにも出来ないしな。




