肉体こそ我がすべてなり? ②
タケミカヅチめがけてはなった矢は当たらなかった。気づいたタケミカヅチが避けたのだ。
私は舌打ちすると、ビャクロが私にいちゃもんをつける。
「おい! 一対一だろう!」
「ビャクロ…。パンドラがそんな約束守ると思うかし…いや、こいつは守るわね」
「そうそう。約束は守ってるよ。タケミカヅチ狙ったのは偶然なんだよねー」
私は笑顔で地面に座りこむ。
「座ってどうした! パンドラはそこであきらめるようなっ…」
「諦めるような奴じゃないよ。もう勝ったから」
「な、なぜっ…」
その瞬間だった。
ビャクロは思い切り前に転ぶ。
「なっ、ロープが奥に…だが甘いぞ!」
ビャクロは手をついて、その場で前転。衝撃を受け流したつもりだろうが甘いんだよ。前転するという癖がある。そのまま移動して攻撃につなげるというのがビャクロのくせなのだ。
だからこそダメなんだよ。こんな近くにいちゃね。私はすかさず右手でビャクロを触ったのだった。
「なっ…」
「癖とかすべて把握してんだよ…。私も油断しちゃいけなかったけどそっちも油断しちゃいけなかったんだよ」
「これでビャクロさんは私に攻撃できません! 私の勝ち、ね」
私は立ちあがり、矢の回収にいったのだった。
矢にはロープを括り付けてある。一本を壁につきさし、もう一本を片側に放てばいい。普通の弓ならば力もないのでビャクロの足を軸にして拘束するだろうが…。この弓で放った矢はそう簡単に減速しない。ロープをピンと張る感じに放てばいい。それに、足に当たった程度で減速するほどヤワじゃないんだよなこの弓。怖いことに…。
「タケミカヅチからもらったこの遺産はいいね。力強すぎる」
「ふ、複雑だね…」
「建物内だったからねー。平原だったらまた違う結果だっただろうけど。どう? ビャクロさん悔しい?」
「柔道では負けなしなんだがっ…! 負けたぁ! 悔しいぞ!」
「ま、これから君を嬲り殺すからな…。負け惜しみとかどんどんいいなよ」
「侮るな。負けは素直に認める。私の実力が足りなかった。パンドラ相手に調子に乗っていた弱い心が原因だ。パンドラこそ、気を付けるべきだったのに」
「さすがスポーツマン。その姿勢は私は素直に尊敬するよ」
私は最初から本気で挑んでたけど。
「でもビャクロを手にかけたくないなぁ…。ワグマですら戸惑ったのに」
「いいぞ殺しても。元より、私も殺す気でやっていたんだ」
「…じゃあ殺さないっと」
「…そうすると思っていたがなんだか悔しいな」
「なんでそんなに二人して死ぬ覚悟があるんだよ…。私は必要なら死ぬけど死ぬ必要がないならなるべく死にたくないんだけど」
二人は覚悟を決め過ぎてる。なぜそんな死にたいんだろうか。人生に絶望でもしてるの?
二人は決意したら必ずやるという固い意思がある。やるといったらやるすごみがあるんだが、まあなんていうか、それのせいで融通が利かなくて結局悔しい羽目になるんだけどさ。
「次は絶対に勝つ」
「勝てない勝負はしたくない」
「ぐう!」
「私はもうあんたらとは戦わない。戦うとしても見せかけぐらい」
あんたらを手にかけるのは私は絶対に嫌だ。嘘をつくことはできるが傷つくような嘘はつきたくない。
私だって…あんたらが大切なんだぞ。
「ビャクロさんが負けるなら俺も負けるよ…。ビャクロさんが負けたのに俺が勝てるとは思えないし」
「ちょ、ちょっと、勝負は!?」
「勝負だとしてもワグマさんの勝ちだよ…。ワグマさん固いからそんな削れないし、俺瀕死だから…」
そんなこんなで、決着がついたのだった。




