バスで帰ろう
髪を切り終わり、白露と一緒にバスの座席に座った。
「そういえばパン子は修学旅行どっち行く予定なんだ?」
「あー、そういや二年生だからあるんだっけ」
修学旅行、修学旅行ねぇ。
うちの高校は修学旅行は国内か、国外かで選べるらしく、国外ならフランス、国内なら京都とかそこらへんらしいと聞いた。
「言葉の通じる日本かな」
「パン子ならフランス語とか喋れそうなもんだが」
「喋れるよ? ただ面倒だなって」
「喋れるのか。聞いておいてなんだがすごいな」
英語、フランス語は叩き込んであった。中学生のころ月乃と一緒にいったこともあり、その時に言葉が分からなくて苦戦したから徹底的に叩き込んだ。知識は。知り合いにフランス人もいないので実戦はしたことない。
「じゃあ私も国内にするぞ」
「月乃はどっちにするんだろうなー」
「わからん。が、月乃のことだ。フランスも京都もいき飽きてるだろう」
「そうだね。月乃だから既にいったことあるんだろうね。ってかあるね」
私と一緒に行ってるからね…。
それにしても修学旅行か。たしか夏休み終えた直後にあった気がするな。もうどちらに行くかの希望票が配られており、国内に丸しておいた。
京都で楽しみなのは宇治抹茶とか八つ橋とかかな。寺などの有名どころも押さえておきたい。有名な鹿苑寺、慈照寺などの寺や、伏見稲荷大社などの神社…。千本鳥居をくぐってみたい。有名どころだけでも結構学べる。すごいよね。
「京都で学ぶ歴史…。もっと掘り下げてもいいかもしれないな…」
「パン子が完全に勉強のやる気モードだ…」
私たちが話していると、バスが止まる。まだまだ自分たちの町のバス停ではなく、まだ隣町だった。
すると、入ってきたのはぶつくさ言っている月乃と運転手さんだ。城ケ崎さんだっけ。
「ったく、ちゃんと整備しておきなさいよ…。さぼってたわね…」
「古い車でしたししょうがないですよ」
「くう…。バスなんて初めて乗るわよ…。運よく知人とかいないかしら」
と、きょろきょろしてるので私と白露は思わず隠れる。
「なぜ身を隠すんだ?」
「サプライズ? どっきり?」
「そうか」
月乃は運転手さんと一緒とは言え、同年代ではないから心細いのだろう。それも仕方ない。白露と私は寂しさなんて感じたことないが。
「くぅ…。しょうがないわね…」
と、月乃は私たちに気づかず、私の前の席に座った。
私は身を起き上がらせる。そして、口に指を当てて静かにするように白露に伝えるとうなずいていた。そして、私は月乃の胸をがっしりと!
その瞬間。
「きゃああああ!?」
「あ、やべっ」
バス内ってこと忘れてた。
「いやっ、いやぁ!」
「お嬢様!」
「パン子…」
「あはは…。どっきり?」
「なにっ、幽霊!?」
「幽霊扱いされてるぞパン子」
「生きる幽霊なり」
私が笑っていると、突然頭にチョップを食らわせられた。思わず前を向くと、涙目の月乃が手刀を構えている。息がちょっと荒かった。
「パン子! もー…」
「どっきり大成功ってか?」
「なんで乗ってるのよ…。白露も…」
「ちょうどこの町に髪を切りに来てました」
「私は付き添いだ。どこかぶらつこうと思ってバスに乗ったら出くわした」
「私は仕事で来てたけど車故障したのよ。ま、あんたらが一緒でよかったわ。初めて乗るのよ」
お嬢様め。そういや月乃と移動するときは基本月乃の車だもんな。
「あんたじゃなかったら訴えてたわよ…。いきなり胸を触らないでくれるかしら」
「ごめん」
「もう…」
と、月乃が前を向く。私は背もたれにもたれかかった。
「きゃあ! だからパン子!」
「え?」
「また胸触ったでしょ!」
「え、今回はマジで触ってないけど」
「え?」
「ああ。パン子は今背もたれにもたれかかってたし腕組してるから触れないぞ」
と、いうと。
バスの空気が重くなったのだった。
「う、嘘、よね? 白露も私を騙そうったってそうはいかないわ」
「嘘じゃないぞ。私は嘘つくのが苦手だからな」
「そ、そうね。白露が嘘をつけるわけがない…。え、じゃ、じゃあ今私の胸を触ってきたのは…」
すると、月乃は無言で立ち上がり、私の前に来る。そして、私の膝に座るのだった。
「お願い。怖いからしばらくこのまま…」
「…なぜ非力な私の方に座るんだ」
「あんただけが幽霊得意じゃない!」
「そうだな。私も苦手だ」
「…」
月乃さんの恐怖はマックスらしいです。




