姉のコンプレックス ⑦
私たちは今警察署にいた。
これも誰が悪いのか分からないが…。まあ、良い行為をしたっていうのはしたんだけど…。
月乃の家から帰り、コンビニに寄ることにした。
「やっぱどれも安く思えるっすね…」
「あの家を見たらそうなるわ…」
お姉ちゃんと巽さんがコンビニの商品に感激していた。
私は普段からよく行くコンビニなので店員に顔は覚えられており、店長とはたまに挨拶を交わす程度の仲ではある。
「あー、あのお客さん…」
「ん? どしたんすか?」
と、私の視線の先にはバッグの中に商品を入れる高校生の姿が。
周りをキョロキョロと見て、そのまま立ち去ろうとして…巽さんが走って行った。
「テメェ! 今見てたぞコラァ!」
と、男子高校生の首根っこを掴み、引き寄せる。引っ張られた拍子に男子高校生は転んだのだった。そして、巽さんは顔を近づける。
「テメェ、バレてねーとでも思っとんのか?あ?」
「ど、どうしたんだい」
と、店の中から店長が出てくる。
「こいつ万引きしたんすよ! ほら!」
巽さんは男の子の鞄を掴み、中を乱暴に外に出す。中からは商品がたくさん出てきたのだった。
悔しそうに男の子は唇を噛んでいる。
「また君か…。次にやったら警察に言うって言ったよね?」
「ちっ…」
「反省してんのかコラァ! 人様に迷惑かけて偉そうにできるタマかよテメェはァ!」
「ひっ…」
胸ぐらを掴み怒鳴る巽さん。
万引きは犯罪だからね…。店長の口ぶりだと前科がある。一度見逃してくれただけでも優しいのにまだやるのか。そこまで金に困ってんのか?
「まあまあ君も落ち着いて…」
「うっ、すんませんっす」
「そ、そうだ!お前は部外者だろ!お前に俺を怒る権利はっ…」
「うるせぇんだよテメェは!」
と、一発。頬に一発巽さんがパンチを食らわせていた。
殴られた男の子は地面に倒れ、気絶している。息を切らし、肩を上下させている。お姉ちゃんはわなわなと震え、指をさした。
「あ…」
「……あっ」
巽さんも不味いことに気がついたのか、弱々しい声を出した。
そして、騒ぎを見ていた人が呼んだのであろうパトカーに私たちが連行されていったのだった。
で、現在警察官から説教を受けてる。
「すんませんっす…。どうしても手がでちまって…」
「君は万引き犯を捕まえたってことだし夢野ちゃんの知り合いだから見逃してあげるけどさ…」
「い、妹さんってどんだけ人望あるんすか…」
「ん? あー、たまに警察署に来ては喋るくらいには付き合いもあるよ。俺ら仕事もパトロールぐらいしかないから暇してんのが多いんだわ」
いや、そこで世間話します?
まあ、白露の父さんもいるしたまに暇なときは白露と来てたりする。白露が柔道をここでも練習するから。
「す、すげえ…」
「あの子は素なのかなんなのか知らないけど人を惹きつけるんだよ。悪い人もだけどね。彼女自体が悪人だからかな?」
「おい」
「ごめんごめん。ま、今度から気をつけるようにな」
謝って済むと思うな。私が悪人だってこと訂正してないだろ。絶対悪人だって思ってるだろ。
こんな善良な人はいないってのにな。と思っていると隣でお姉ちゃんが肩を震わしていた。
「悪人…ぶふっ」
「神崎さん殺してえ…」
「殺害予告。逮捕するよ?」
「すんません!」
私がため息をつくと、お姉ちゃんは腹を抱えて笑い出す。
「あはは! あーははは! 悪人て! 悪人てえ!」
「そんなに笑うなよ…」
「悪人って思われてる眠と比べりゃ私の悩みってどうでもいいな! あはは! 腹痛え!」
「コンプレックスが消えたんならいいんだけどそんなに笑うと私もむかっ腹が立つんだけど」
お姉ちゃんは警察署内でゲラゲラ笑う。
まあ、コンプレックスはなくなったかな? 知らんけど。私も途中から目的を忘れて楽しんでたよ…。




