魔王みたいな三人だな
私はその佐倉ってやつの目の前に現れる。
「あんたは苑木くんと話してた…」
「夢野ねー。ま、名前は覚えなくていいよ。負け組さん」
私は思い切り笑う。
「自分の見た目だけが可愛いからって苑木くんを落とそうとしちゃってさぁ! ばっかじゃないの! あははっ、これは一種の喜劇かな!? 見た目だけで落ちる男だと思ってる時点であんたが苑木くんを軽く見てんじゃない!」
「なっ…」
「苑木くんだって結構な家柄で、外見に惑わされるような奴じゃないってことは天蘭学園の生徒みんなわかってるはずなのにさぁ。あはは、編入生ってこんなにも馬鹿なんだ。頭が弱いって…。よく編入できたね、この程度の敷居なら私だって余裕で入れるわ! あーっはっは」
わなわなと相手が震えだす。
ま、相当プライド高いだろうから馬鹿にされてたぶん外面を外すだろうな。天蘭学園の生徒だっていうことも誇りがあるのかもしれない。
「あんた、そういうこというのってひがみ? 私よりバカだから? 私より不細工だから?」
「不細工なのは人の個人の感覚だから別にいいんだけどねー。頭は少なくとも君より上だよ?」
「笑うだけしかできてないじゃない。的外れなことをいって笑ってるだけじゃないの。それのなにが頭がいいっての?」
「全国模試じゃ苑木くん抜いて第一位だし、ほとんどのテスト百点なんだよなぁ」
「…証拠がないじゃない」
「たしか順位表がネットにあるはずだよ? あ、そうそう。私のフルネームは夢野 眠だからねー。一番上にあるよ」
私が天蘭じゃないからって頭悪いと思わないでもらいたい。私自身天蘭に入れるほどの入学金がなかったし、白露が進学できそうなのが今の高校だったからだ。
学力でマウント取るつもりだったんだろうが頭は少なくともお前よりはいいんだ。
「学力でもマウント取ろうとして取れなくておっかしー! 性格も不細工で学力でも負けてじゃああんたになんの取り柄があるんだっての! とりえもないあんたと苑木くんじゃ絶対釣り合わないねー」
「ぐっ…」
「それに自分を知ったほうがいいよ? 家柄的にも吽神さんは舐めてかかれる相手じゃない。喧嘩売る相手には絶対勝てないよ?」
悔しそうにドレスを掴んでいる。そりゃ悔しいだろう。正しさで言えばこちらの方が正しいのだ。家柄的に、阿久津家、吽神家は敵に回していい存在じゃない。
それに、吽神家、阿久津家は仲がいいのでどちらかを敵に回すとどっちも敵に回すことになりかねないのだ。
「ま、吽神さんから何か言われても周りに言えないよなぁ。吽神さんは敵に回せないもんなぁ」
「…できるもん」
「は?」
「できるっつってんの!」
「おいおい、ここまで頭が弱いのかよ…。どんだけ盲目なんだ…」
初対面だから優しくしてあげてたのにさー。
「助けて! いじめられてるの!」
と、佐倉が叫ぶと、男子生徒が私を取り押さえた。なるほど、他の男を落としてるってのか。だがしかし相手してるのが悪いんだぜ。
私はにやりと笑う。
「私はあの阿久津家の一人娘の親友だぜ? 吽神さんとも親交がある。苑木くんともライバル関係だ。そんな私に手を出すの? 少なくとも三家が敵に回ることを覚悟しなよ?」
と、ちょうどいいときにその三人がやってきた。
「パン子、なにがあったの!?」
「大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
と、私が思い描いたように駆け寄ってくれる。
先ほどの言葉が本当だと信じた男は私の上からどいて逃げていった。誰を敵に回しちゃいけないか、それぐらい考えることはできたってわけだ。
他に助けようとやってきた人たちも三人が近づいてきたことにより逃げていく。
「無理やり犯されそうになったんだよ。あの男子生徒の名前はたしか…結城だったかな?」
「ひい!? ち、違う! 犯そうとは…」
「でも女子の上に馬乗りになるってそういうことだよね? 怖かったよ」
「…夢野。すまないな。うちのもんが。あとは俺らに任せてくれないか? たぶん主犯は佐倉だろう? 本気で叩き潰す」
「手伝いますよ、苑木くん」
「私もやろうかしら。パン子をいじめていいのは私だけだっての」
「いや、あんたもダメだけどな?」
いやー、大層お怒りですねー。
私としてはまだ暴れたりないっていうかねー。心を完全に潰したわけじゃないし…。
「とりあえず佐倉。お前の家との取引は中止だ。婚約者がいる俺に色目を使ってくるなんざ俺のこ、ここ、婚約者を馬鹿にしてんのか?」
「ち、ちが…」
「あなたが私の事あることないこと吹聴しているのは知っています。たいして気にしていないので無視してあげたのですが…」
「結城、ねぇ。たしか上場企業の社長の息子よね。うちとも取引があるけど…。取引を考えようかしら」
「そんなっ…」
ま、敵に回しちゃいけない奴だっているんだぜ。この世の中には。
「…ほんとに魔王みたいな三人だな」
と、そうつぶやくと、三人がこちらを向く。
「魔王じゃない。俺は魔王じゃない。そこまでひどい性格ではない…」
「あはは。面白い冗談を言いますね。夢野さんも一緒に潰して…」
「まあ役職的には魔王だけど性格はあんたが魔王よね」
「ちょっと吽神さん? エイプリルフールは終わりましたよ?」
「…」
「ちょ、本気!? ごめんなさい」
「夢野さんって表情変わらないからちょっと変えてみたくなって怖がらせてみました」
「やっぱり冗談だったか…」
少し本気にしたぞ…。こいつらがいうとマジでシャレにならないから困るんだよ。
「あ、そうそう。夢野さん、前に相談して決めたのですが魔王軍ってあるじゃないですか」
「ああ、突然ゲームの話?」
「ええ。で、私としても友達とプレイしたいなーってのはありまして」
「ふんふん」
「で、この度魔王軍と協力関係結んで魔王国の一部になりました。聖なんちゃら王国は」
「自分の国名を覚えろ。ルフラン神聖王国だろう。王国しかあってないぞ」
と、苑木くんがつっこんだ。
「苑木くんもやってんの?」
「…まぁ、面白そうだったからな」
ゲーム内で苑木くんみたことない。
「今のイベント終わったらフレンドになろうか」
「あ、ああ。わかった」




