苑木の誕生日パーティ
私はとあるホテルのパーティ広間に来ていた。慣れないドレスを羽織り、立食パーティに参加している。月乃の誕生日、というわけでもない。
苑木の誕生日に私が呼ばれたってだけ。周りを見ると天蘭学園の生徒が多い。いや、ほとんど天蘭学園の生徒だろう。他は他学校に通う家の付き合いがある人とかかな。
私の見知った人は吽神さん、苑木くん、そして月乃ぐらいだ。
「阿久津、夢野。楽しんでいるか?」
と、本日の主役である苑木くんが話しかけてくる。
タキシードをばっちし決めて、片手には飲み物を持っている。こいつ顔じゃクール気取ってんのに内心めっちゃはしゃいでんな…。隠しきれてないぞ。
私はため息をついた。
「ど、どうした? なにかあったか?」
「いや、ここで大した家柄じゃないの私だけかなーって」
「いや、そうでもないぞ。今年編入してきた奴も勉強ができるってだけで大した家柄じゃない」
「編入?」
「親の事情で海外に行っていた奴が戻ってきて天蘭に入ってきたんだ。見た目だけなら結構可愛い」
と、そうこぼしていた。
「あら、浮気宣言? 魔子っていう婚約者がいて?」
「そうじゃない。見た目だけだ」
「手厳しいねー」
「違う。なんていうんだ、こう、馴れ馴れしくしてくるから逆に怪しんだよ。今もこっち見てるぞ」
まじか。私は顔がどんなんだか知らないけど…。
「なんつーか、乙女ゲームの主人公みたいな感じの奴なんだ。雰囲気がそんなやつ。作ってんのか素なのか…」
「ふうん」
と、こちらにやってくる人影があった。女子生徒だ。こいつがたぶん件の女子生徒だろう。少し厄介そうにしているが、顔の表情は少ししか変えていない。
そういうあいまいな態度が女子には受けが悪いんですよ。
「苑木くん! 本日は誘っていただきどうも…」
「気にするな。一応親とは関係があるから呼んだだけだ」
…。
「あっ、私トイレしてきますのでー」
「あっ、パン子! 逃げないの! 私も行くわ!」
「あっ、お前ら!」
厄介そうな匂いがしたので退散した。
私が立ち上がってトイレ行こうとした時に顔を見ると少しほっとしたような顔をしていたのだ。うん、腹黒いなコイツ…。
玉の輿狙いか? それともただただイケメンを落としたいだけの乙女ゲーム主人公か?
私がパーティ会場に戻り、やっと解放されたであろう苑木くんが吽神さんに怒られていた。
申し訳なさそうにしている苑木くんとその隣できょとんと何が悪いかわかってない頭の悪い子(多分演じてる)の女子生徒。
「あなたは私の婚約者なのですよ。あまりべたべたしすぎるのはダメです」
「いいじゃないですか! 海外では抱き合うのだってスキンシップなんですよ!」
「……」
吽神さんはどちらかというとあの女子生徒に怒ってるっぽいな。
そろそろ限界が近い。吽神さんが本気で潰しにかかるのなら苑木くんだって止められないだろう。止めれるのはこの中だと月乃ぐらいか。
月乃を見ると仕方ないわねといって吽神さんの隣にいった。
「はい、魔子すとーっぷ。頭に血が上りすぎよ。ね? 怒りならうちのパン子にぶつけていいから」
「は? なんで?」
「それに、いくら海外にいたとはいえここは日本ですよ。ここがどこなのかしっかりと理解してくださいね。佐倉さん」
「…っ」
佐倉と呼んだ女子生徒は何か言いたそうにはしていた。
月乃は吽神さんと苑木くんを連れてくる。
「ちょっと月乃さん? ストレスのはけ口に私とかやめない?」
「しょうがないじゃない。あんたが一番ストレス耐性高いんだから」
「す、すまない。俺がはっきり拒絶しないばかりに。魔子に怒らせることになって」
「いい。気にしないでください。私はもう苑木くんには怒ってません」
苑木くんにはってことはあっちには怒ってんだなぁ。
私はその場をふらっと離れ、あの佐倉って子に近寄る。佐倉って子は物陰にいつのまにか移動していて、爪を噛んでいた。
「なんなのよあの女ッ…。邪魔なのよ…! たかが婚約者のくせに。私の方が可愛いんだから」
「見た目可愛い性格ブスね」
「だ、誰よ!」
しょうがないな。吽神さんの為に灸でも据えてやるか。




