魔王と魔王の対峙 ①
この聖杯は私がキングである証明なのだろう。
とはいえこのまま王って知られないで過ごすのもつまらない。私のこのダンジョンに挑みたいと思う人がいるならいいんだけどなぁ。
それに、私も私でこっから出られないし。
「そろそろ誰か来そうだけどなぁ」
その時だった。
侵入者とまたアナウンスが鳴り響いたが、その警告だけで銃声が鳴らない。前は問答無用で銃声が鳴っていたような気がするが…。銃を止められたのだろうか。
でも誰か来たようだ。私は玉座に座って待っていよう。いつ来るかはわからないけれど…。
三時間が経っただろうか、やっと一人目がやってきた。
警報音しかならなかった理由がやっとわかった。
「な、何してるのパンドラ。こんなとこで…」
「こっちのセリフ。まさか私のダンジョンに一人で来るとか無謀すぎない?」
「しょうがないじゃない! ビャクロは今入院中だし、レブルはパンドラ探して出かけてるし!」
「ああ、探されてんの?」
「そうよ! ったくここにいるとは…。で、何してんの?」
「ん? 王になってるだけだよ」
「あんたが王になってんのかい!」
知らなかったのか。私自身ここはどこだとか思っているがそんなんはどうでもいい。ワグマはきっとこの聖杯を狙ってきたんだろう。ここに来る理由はそれしかない。
私は聖杯をくるくる回す。
「で、狙いはこれだろ? これをどうする?」
「奪うわ。元よりそんなつもりで来たもの。相手があんたってことは予想外だけど」
「奪う、奪うねぇ。私からまだ搾取しようっての? 小さいころお金を奪われ、親を奪われた私から?」
というと、ワグマはなにか言いづらそうにしていた。
「ひ、卑怯じゃない! そんなの言われたら攻撃したくないわよ…」
「可哀想だと思うなら帰ったほうがいいと思うけどなぁ。私以上に金も親も持ってるのに何が不満なの?」
「ぐうううううう!」
「まあいいよ。私を惨めにしたいのなら来るがいいさ。でも、ワグマはできないよなぁ? 私の事知りすぎてるから」
私がそう言うと、ワグマは何かを悩んでいる。何を悩むことがあるんだよ。別にいいよ。奪っても。私は悪役としての立場でノリでいったわけだしそんな気にしなくてもいいのにさ。
親がいなくても私は今幸せだしそれだけで十分なんだけど。
「うううう…」
「ほら、ワグマも親友であり、敵に回すと恐ろしい私と戦いたくないだろう? ほら、後ろ向いて出ていっちゃいなよ。なにもしないから」
私はワグマの耳元でそう囁いた。
ワグマはまだ悩んでいるようだった。私のこと知りすぎてるからこそ効果的なのは知ったうえで言った。だがしかし、ワグマならどちらにせよ戦う決断をしてくるだろう。そういうやつだ。
「…決めた」
「決めたって、何を?」
「私はあんたと戦う! よく考えたら奪うのが悪役じゃない! 悩む必要はなかったわ!」
「私もワグマと戦うの嫌だから帰ってほしかったんだけどなぁ…」
私がそういうと、ワグマは意外そうな顔をしていた。
「あら、あなた私より強いでしょ。でも嫌なの?」
「そりゃ友達に暴力とかは振るいたくないし」
「あんた意外と友達想いなのね」
「うっせ」
ワグマは大剣を構えた。




