詐欺セールスマンをとっつかまえろ！　①

　ゴールデンウィーク二日目。

　巽さんが運転するバイクにまたがっていた。どうやら最近は二人でツーリングにいくのが好きらしく、長期休みが取れた場合は結構遠くにまで行くらしい。

　で、巽さんのバイクは結構いかつく、デカい。

「風が気持ちいー！」

「妹さんに喜んでもらえるなら光栄っす！」

「なんであんたまでついてくんのよ…」

　いや、何もない家でじっとしてるのも暇だから。

　巽さんたちのバイクは峠を越えた。すると、一つの高級車が私たちの横を通り過ぎる。巽さんも高級車だってことが分かったらしく、感心していた。

「この町にあんな高級車で来る物好きがいるんすね。泥で汚れるだけだってえのに」

「それにこの町は金持ちが好むようなものはないと思うけど…」

　あれは月乃？　でも車種が違うんだよな。嫌な予感がぬぐえないが…。

「でもあの車どっかで見たことあんだよなぁ…」

「え？　マジで。どこで？」

「すんません。それは覚えてないっす」

　と、頼りにならない。

　私の勘が嫌な予感を告げてるが…。巽さんにいって戻ってもらったほうがいいだろうか。だがしかし、あの車の主が何かするとは限らない。あくまで私の予感で嫌な予感がするだけであり…。

　でも巽さんが見たことあるんならきっとろくでもないのでは？

「うーん、戻って様子見てみる？」

「そうっすね。なんつーか、最近実家の方で嫌なことばかりあるんで心配っす」

「心配？」

「怪しいものばかり売りにくるセールスマンがいるんす。なんつーか、田舎には不釣り合いの高級車でばしぃっとスーツを決めていつもニコニコして水をうってるらしいんすわ。魔法の水っつーんすけどね」

　…さっきの高級車はあのセールスマンなんじゃないだろうか。

　そんな疑念が頭に湧いた。

「その水が高いし、それに騙されて買うじじばば共もいて結構被害被ってるんすよ」

「へぇ…」

「アッキ、ちなみにどこの会社が売ってるかわかる？」

「阿久津家当主、阿久津 創介直々で売っている、私はそこの息子だと…」

　その言葉を聞いて私はちょっと怒りがわく。

　阿久津家に男の息子がいるなんて聞いたことがない。

「俺らは阿久津家が有名な資産家ってことぐらいしか知らねえし、息子がいるのかどうかは知らないけどよ、それでも有名な人だから安心して買っちまうんだよ」

「…眠」

「わかってる。あの阿久津家には息子はいない。十中八九詐欺だろうな」

「なにい！？　やっぱりそうなのか！　野郎、おかしいと思ったぜ！」

　峠の頂上で休憩していたのでここじゃ電波がつながらない。

　とりあえず巽さんにお願いして峠を下りてもらうことにした。ったく、月乃もいい迷惑だろうよ。自分ちの名前を騙られてるんだから。

　峠を下り、電波が届く範囲になったので私は月乃に電話をかける。

『なによパン子』

「うちの姉が暮らす町に阿久津家の息子が水を売りに来てるんだけど」

『水？　うちはセールスなんて真似はしてないわよ…？』

「だよな。それに、息子はいないよな」

『そうね…』

「実はと言うと阿久津家の息子を名乗る輩が詐欺に来ててさ。結構被害を被ってるらしい」

　そういうと、月乃から言葉が聞こえなくなる。

『誰よそいつ！　私も今から向かうわ！　とっ捕まえるわよ！　勝手に私の家の名を使うのは許せん！』

「だよな」

『パン子、あんたも協力しなさい』

「はいはい」

　私はそういって電話を切った。

「誰に電話してたんすか？」

「あの例の阿久津家の一人娘。今からこっちに来るってさ」

「何と知り合いなんすか！？」

「こいつの人付き合い異常だから…」

　姉が呆れたように言うのだった。