アンタ、アトデ、コロス
私は風呂から上がり、リビングに行くと正座している先ほどの男の人と、お姉ちゃんがいた。
私は無視して冷蔵庫から牛乳を取り出す。
「こんな目に遭うんなら帰ってくるんじゃなかったよ」
と、嫌味だけを残して部屋に戻っていくことにした。
ったく、帰省早々嫌な目に遭うとはついてないな。と思いつつ、キャリーバッグを漁る。たしかゲームを…。あ、あれ?
私はもう一度まさぐってみる。が、ヘッドギアらしきものがない。
「家に…忘れたっ!」
この私がっ!
そういや昨日5時に寝て七時の電車に乗ろうとして寝坊してドタバタしていたんだっけ。持っていこうと思ったものも忘れるからなぁ…。
はぁ、なにもかもついてない。
私はすべてを投げ出し、横になる。
すると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。私は何も言わない。どうせお姉ちゃんとあの男だろうから。
入りたきゃ入ればいいし、入りたくないなら入らなければいい。
「…眠、ちょっといい?」
「今うちの母が危篤で」
「お母さんもう死んでるでしょうが。そういうこといえるなら大丈夫そうね」
「いやいや、まだまだ怒ってるよ?」
流石に殴られたところはまだ痛い。
「謝罪だけ受けてやって欲しい。頼む」
と、部屋に入ってきてお姉ちゃんが頭を下げる。
意地っ張りで私に何か絶対頭下げたくないようなお姉ちゃんが下げるなんて珍しい。いいもんをみた。
お姉ちゃんは必死に謝ってくる。後ろではただただ申し訳なさそうに突っ立ってるだけの男。私はため息をついた。
「姉ちゃんが頭下げてんのにあなたは頭下げないんだ」
「アッキ、頭下げて謝りなさい…。許してくれるから…」
「許すとは一言も言ってないけど…。まあいいよ。許してやるから頭下げてー」
と、勢いよく頭を下げる男の人。
その瞬間、私の首筋に何か落ちてきた。かさかさと動いている。クモだろう。この感覚は。タイミングよすぎだろ。クモが降ってくるとか…。
私はとりあえずクモを捕獲した。
「姉ちゃん、はい、クモ…」
と、差し出そうとすると男の人とお姉ちゃんが勢いよく後ろに下がる。
おやおや?
「…虫、苦手」
「…苦手じゃない。あまり得意じゃないだけ」
「それを苦手っていうんだよーん! ほら、飛んでけーい!」
私はクモを放り投げる。クモはお姉ちゃんの頭の上に着地した。お姉ちゃんの体が一気にこわばる。固まったまま動かなくなった。
そして、隣の男の人にとってとってとロボットみたいにいっていた。
「お姉ちゃんロボットみてえ! あははっ!」
「アンタ、アトデ、コロス…」
「お、おお、俺も苦手なんだが! ど、毒もってねえよな…」
「どこにでもいる種のクモなんだからあるわけないっての! あ、でも背中が赤い…」
「セアカゴケグモじゃねえか!」
「ひいいい!?」
「うっそー。ほら、とってあげるから」
私は手づかみでクモを捕まえる。
その瞬間、殴られた頬とは反対の頬をビンタされた。
「怖かったんだからね! バーカバーカ!」
「いって…。追い打ちかよ…。悪口も小学生レベルだし…」
「バーカバーカ、バーーーーカ!」
と、涙目でバカバカしかいわない。
うん、やっぱりいじめられるよりいじめるほうが好きだわ。




