初対面で殴られた
ゴールデンウィークに入り、私はお爺ちゃんの家に帰省することにした。
ここ一年顔見せてないのでちょっと怒られたっつーか。あんなど田舎に行きたくないなぁと思いつつバスの外の景色を眺める。
バスが停まり、降りたのは本当になんもないところ。今日は迎えもないので歩いて家に向かう。
で、雨が降った後なのか、お爺ちゃんの家に続く農道は泥水であふれており、目の前から軽トラックがやってきて、私に水をぶっかけたのだった。
私は無言でキャリーバッグをひいていき、家に入る。
「お、よく来た…って、泥まみれじゃない! さっさと風呂入んな!」
「お、おう…」
私は脱衣所にそのまま向かい服を脱ぐ。
そして、いざいかんと言わんばかりに浴室の扉を開けると、金髪の男の人が頭を洗っていた。私は思わずその光景に固まってしまう。
「…ふぁ?」
「ふ、不審者!」
と、その男の拳が私の頬にクリーンヒット。口の中が切れ、鉄分の味がしてきた。
…なにこいつ。私は血を吐きだし、目の前の男を見る。どうやって報復してやろうかな。と考えていると、脱衣所の扉がまた開かれた。
「わり、先客いる…ってもう遅かったか」
「…誰コイツ」
「てめえこそ誰だよ! 真昼間から堂々と泥棒かテメエ! 裸で入ってきやがって!」
「お風呂なんだから裸になるのは当たり前だろ。それより、あんたの常識を疑うよ。初対面を殴るかフツー」
「う、うるせえ!」
私は殴られた頬をおさえる。
「…アッキ。こいつは私の妹な」
「…は?」
「…けっ」
誰だよこいつは。私からしたらあんたが不審者なんだけど。
私自身殴りかからなかったのになんであんたは殴るのかね。しかも女を。私じゃなかったら泣きわめいているところだったぞ。
「す、すまなかった! 姉さんの妹さんだとはつゆ知らず! とんだご無礼を!」
「もう弁解はいい。私はあんたの事嫌いになったから」
「そんなっ…」
「初対面で人を不審者扱いして殴る、お姉ちゃんの妹と知ると手の平を返す。あんたほんと気に食わない性格してるよな」
私は男の横を通り過ぎていく。
この男の態度にムカつきを覚える。珍しくイライラしてるぞ。ここまでイライラしたのは久しぶりかもしれない。
私は勢いよく扉を閉めたのだった。
「…あれは完全に怒ったね。今のはアッキが全面的に悪い。まだ治ってなかったの?」
「……」
と、姉さんたちの会話が風呂越しに聞こえてくる。
あの風貌から察するに元ヤンだったんだろう。お姉ちゃんに負けるかなんかして足を洗ったって感じだろうな。
だがしかし、長年のくせというものは早々抜けないものだ。
「とりあえず私の妹を怒らせたらマジでダメなんだって…。私ですら敵わないのに」
「……」
「私から言ってあげるから。本当に悪かったって思ってるんだよね?」
「…はい。やりすぎました」
甘い。
なぜ本人の口から言わないんだ。人に言わせて恥ずかしくないのか。人に助けを求めなければいけないようなやつなのか?
ダサい。自分で誠心誠意謝らない限り許してやらないことにした。




