一つの弔い方
気絶しているのかと思っていたが、心臓の鼓動が聞こえない。私は福井警部の胸に耳を当てて聞いてもたしかに聞こえない…。脈も測ったがなかった。
死んでいる…?私がそう口に出すと大地の勇者たちは慌て出す。
「ど、どうにかして蘇生できないかな!」
と、大地の勇者たちも駆け寄りそうほざく。
「やめとけ。生きてたらまた同じことするだけだ。死んだままにしておけ」
と、ビャクロが言うが、聞く耳を持っていない。
人の死を間近に見たことがないんだろう。死んだことが受け入れられないってことだ。魔物を殺す決意はあるのに人を殺す決意はなかったということだ。
ワグマ、ビャクロがあきれ顔で見ている。
私は見せしめるように水の魔法で福井警部の腹部を貫いたのだった。
「なっ…!」
「こいつは悪党で、世界を滅ぼそうと考えていた奴だぞ? なぜ生きててほしいと願う」
「生きて…罪を償うべきだろう」
「警察がどんな理由で逮捕するんだ…。国家転覆罪か? ならどちらにせよ死刑は免れん。福井警部…俺の上司は死ぬべきだった。裁くのは国がやるべきだが、この世界の人間じゃないあんたらがやったほうがいい」
と、意外にも日下部さんが私に賛同してきた。
「でもえぐいことするねー…」
「空知は見ていても平気か?」
「異世界に行ったことあるもん。人の命が奪われるところは見たことある。慣れた」
「嫌な慣れだな。こういう俺も殺人事件とかで人が殺されてるところをたくさん見ちまってるから慣れたがよ…」
日下部さんは腹部から血がでている福井警部を見下ろす。
日下部さんは苦しい顔をしていた。
「この人は小さいころ家に強盗が入ってきて両親が殺された。親戚たちにも厄介者にされてどこにも居場所がなかったらしい。そのことを面白おかしく語ってくれたがもしかすると助けてほしい、ということだったのかもな。いまさら言っても遅いが」
「…世界を壊そうとする動機としては弱い気がするが」
「いや、人って案外些細な理由で人を殺すんだからそういう弱い理由でも十分でしょ」
境遇としては私に似ているかもしれない。
いや、厄介者って扱いは去れたことはないが。うちには叔父夫婦たちがいたからここまで立派に育った。立派かどうかは知らないが。
だがしかし、福井警部は人に恨みがあるんだろうな。強盗や、親戚たちに。で、不意に力を手に入れてしまったからこういうことをしたんだろう。
「……」
やりきれない顔をする大地の勇者たち。
「お前らはまだまだ甘い。人を無理に更生させようとするんじゃねえ。治らない悪っつーもんも世の中にはあるんだ」
「でも…」
「それに、福井警部も計画が失敗に終わって、何もできずに負けて死ぬほうがマシと思うだろうよ。これも案外一つの弔い方なのかもしれねえな」
「…日下部刑事、もしかして泣いてる?」
「あ、あたりめえだろ! 曲がりなりにも俺の上司で可愛がってくれてたんだ!」
「お、おおう…。私にそこまで言うとは…。しょうがない、この空知ちゃんが相談に乗ってあげますよ! 日下部刑事のおごりで」
「俺のおごりかよ! 前のパフェのせいで俺ぁ怒られたんだぞ!」
結局怒られたんだ。
「ま、とにかく生かすことがすべて正義だと思わねえことだ。無論、死ぬことだけが償うってわけじゃねえ。罪人を裁く権利は結局お国次第だ。お前らも正義の味方みたいな真似事してねえで勉強しやがれ。ほら、俺は警察呼んで後始末する。さっさとお前らも帰れ」
と、私たちに帰るように言ってきたので私たちは素直に帰ることにした。




