伊東の母親
月乃はわざわざ貧乏そうな格好に着替えて、私にも同じように着替えさせる。
渡された制服はところどころほつれており、洗濯しても取れなかったようなシミや、ちょっと小さくて丈に会ってないような感じのものだった。
たしかに制服何着も買えない貧乏そうな格好だけど…。
「よくまぁこんな短期間に…」
「なにをごちゃごちゃ。行くわよ」
と、私たちは伊東の家に向かうことになったのだった。
伊東の家は大きくもなく小さくもなくっていう感じで、結構裕福なんだろうなぁと思えるほどにはデカかったが……。月乃の家…一番小さい別荘よりも小さいっていう感じだろうか。
月乃の家が異常すぎるだけなんだが。
「すいませーん。遊びに来ましたー」
私がそういってインターホンを鳴らすと中からおばさんがでてくる。
「うちの母さん」
「……ちっ」
と、私たちの格好を見て舌打ちをする。
どうやら仲良くしたくないようで、早く帰ってほしいと思っていそうだな。まあ、付き合いを選べっていうんだから自分もそりゃ選ぶだろうに。
それに、見ただけでも結構なブランドものだとわかるものをたくさん見につけている。身に着けてるものだけでも総額10万以上は余裕で行くものばかり。月乃を知らなかったらすごいとなってたかもしれないけどな。
「はじめまして。私はご学友の阿久津 月乃と申します。こちらは夢野 眠と私たちの友人ですわ」
「ご丁寧にどうも…。まさか、あなたがた上がりたいっていうのかしら…。悪いけれどあなたがたみたいな人たちは入れたくないのよ。ごめんねー。外で遊んできてくれるかしら」
「外で遊ぶには寒いので中で遊びたいな」
私がそういうと私を睨んでくる。おーこわ。
「なんですか? 外で遊ばせたい理由があるんですか?」
「これだから貧乏人は嫌なのよ…。私の家に入りたいのならもうちょいマシな格好してくることね! あなたがたみたいな制服も満足に買えないような…」
「……貧乏、ねぇ」
月乃から見たら私は貧乏だし、たぶん伊東家も貧乏に見えるだろう。
「見た目で貧乏人と判断するのはいかがなものかと存じ上げますわ」
「……ちっ」
「……伊東くん。父親はどこに勤めてるのかしら」
「…一応零細企業の社長を務めてるぐらいだ」
「あら! その程度! まあ!」
煽るなぁ。
その煽りが気に食わないのかどんどん露骨に不機嫌になっていく。
「たかだか一社長夫人ってだけでそんなマウントを! まぁまぁ!」
月乃ってお嬢様なはずなのに結構軽率に人を煽るよな。
友達付き合いって大事だよね…。私とかかわったから多分煽るような悪い子になったんだよ…。友達付き合いは多少選ぶべきだよね…。
「じゃあ外で遊べっていうのだから遊びましょう! 今日は夜は私のおごりよ! そうねぇ、今はイタリアンの気分だからイタリア料理を奢ってあげるわ!」
「よっし、乗った」
「…俺もいいのか?」
「当たり前でしょ。外で遊べっていうんだから仕方ないわ」
「わかった。…最後に一ついいか」
「いいわよ」
と、伊東くんが母に向き合った。
「…言ってなかったが父さんは離婚の用意を進めてる。もうそろそろ緑の紙が突きつけられるだろう」
「えっ…」
「母の横暴な態度と浪費が嫌になったんだと。自分があくせく働いて結構稼いだ金もほとんど母に使われるから溜まったものじゃないと話していた」
「う、嘘、よね?」
「嘘に思えるか? 今日はエイプリルフールじゃないぞ」
そういうと、母親は崩れ落ちた。
「あれは自分の将来設計が壊れたと言わんばかりだねぇ」
「だいぶ父親の方はマトモな方みたいね」
「…ああ。父は俺のためになら金を惜しまないし、父は金を持っていても人を見下すような人にはなるなと教えてくれた。母が怖くて結局見下していた面もあるかもしれない。悪かった、夢野」
「…ま、あんな母親なんだから仕方ないでしょ」
「…今日も怖かった。お前らが帰ったら殴られる感じだった。母に逆らうといつも殴られる。だから怖かった」
と、ありがとうと、頭を下げた。




