伊東の事情
留置所のベッドはお世辞にも寝心地がいいとはいえず、まあ、住めば都というのでそこを拠点にすることにした。
もちろん、不思議なことが起きた事件は私が手伝うという条件付きで。
とりあえずその日はログアウトして翌日。
で、今現在、地獄を見ている。
「夢野…。友達に」
「なんでだよ…」
「さすがに友達がいないってのは…」
伊東につきまとわれていた。
私はうざったくしているのだが、友達になりたいの一点張り。少々ウザい。
「あのねぇ、自己紹介の時に自分より頭が悪い奴と友達になりたくないとか言うやつとは友達になりたくないの」
「……でも」
「なんでお前はそんなに偉そうなんだ? 頭の良しあしがお前自身の人生にかかわるのかよ。言っておくが私には頭の悪い奴もいるからな友人に。友達付き合いをえり好みする時点で友達にはなりたくないんだよ」
私はそうバッサリと言い捨て、女子トイレに入っていく。
さすがに女子トイレに入るほど非常識じゃないらしい。そこには偶然月乃がいた。
「あ、パン子。良いところであったわね。あの伊東ってやつ調べてきたわよ」
「ああ、結局調べてくれたんだ」
「そりゃパン子が迷惑してるそうだしね。ま、結構いいところのおぼっちゃんだ。天蘭にいたそうだけど天蘭で問題を起こしてこっちにきたそうよ」
「へぇ」
「親は父親と再婚した母親で再婚した母親がとにかく伊東に友達は選べ、自分より格下の相手とは付き合うな、と過去から言われてるらしいのよ」
なるほど。ああいうことを言ったのは過去からそういうことを言われているからか。
子供の時から言われているとそうなってしまうこともある。というか、反抗すると何が恐ろしいことをされるのだろう。反逆の芽を取り、恐怖を与え従わせる。恐怖政治ねぇ。
力を持った時復讐されることとか思わないのだろうか。
「呆れたことにその母親、自分が一番と思ってるらしくて自分の会社が一番だと思ってるらしいのよ。ほんっとむかつくわね…。日本で一番は間違いなくうちだっての」
「つ、月乃?」
「なんであんなセレブ自慢をしたいのかしら。本当のセレブはそんな見せびらかさないのよ。下品で汚らわしい…。あんなの似非よ。似非セレブよ」
「なにがあったんだ月乃さん…」
月乃はなんかちょっと怒ってる。
「さすがに伊東に同情せざるを得なかったわ。あんな奴の下で育ったらそうなるのは当たり前よ。バレて痛い目にあうぐらいなら本当に選り好みしてでもパン子みたいな優秀なやつと繋がってたいのでしょうね」
「ま、バレた時が怖いからリスクを冒さないならそうなるわな。それに、たしかにあんな風に言うならハブられるのは当たり前だし、傷つかないために遠ざけることも理にかなってるっちゃかなってるか」
理由があった。だがそれでも私は友達になる気はない。
家庭の事情なんてそんなのはしらん。私にはどうでもいい。
「そう。だから可哀想だからちょっと今日はその親に会いに行くつもりよ。伊東家の会社とは何もつながりはないし、たぶん相手は私のこと知らないでしょうからとことん差を見せつけてやるわ。あんたも来て」
「はいはい…」
「あと、伊東君にも言っておいてくれるかしら」
「わかったよ…」
関わりたくないんだけどな。




