高級海鮮レストラン
勉強しているといつのまにか午後四時になっていた。
「あれ? もうこんな時間」
と、二人を見るとぐったりとちゃぶ台に突っ伏している。
「あれ? どしたの? もうめげた?」
「…白露。この前は本当にごめんなさい。嫉妬したけどこれは嫌でも上がるわ。ほんとに」
「いや、これいじょうにひどかった。罰則があったり怒鳴られたりしていた。精神攻撃もあったぞ。パン子の精神攻撃は私でも効く」
と、二人が疲れていた。
「この程度の勉強でダレるなんて…。あ、お腹空いた」
「昼ごはんはと聞いてもあんた無反応だったじゃない……。なんで朝の八時から午後の四時までずっと勉強してるのよ。高校でもこんなぶっつづけでやらないわよ…」
「もうしばらく教科書は見たくない」
なんだか二人がめちゃくちゃ憔悴しきってる件について。
私としては昼ごはん無しというのはよくあることだし慣れたっていうか勉強に熱中してるとこうなってしまうというか。まあそういうわけでいつも通りというか。
「あんた誕生日まで勉強してて悲しくならないのかしら」
「全然楽しいから悲しくない」
「勉強に関しては無駄なポジティブ…。頭おかしいわよ」
そこまでいう?
「んじゃ、どっか遊びに行くか」
「もう夕焼けが見えてるぞ…。遊びに行く時間でもないだろう」
「でもこのあとレストラン予約してるのよ。嫌でも行かなくちゃいけないわ」
「ん? レストラン? 二人で行くの?」
「あんたの誕生日なのにあんた抜きで行かないわよ…。高級レストランよ。貸し切りというわけじゃないからマナーだけはきっちりしなさいよ。つっても、あんたマナーは既に頭に入れてるか…。あえてしないだけで」
「場を弁えるって私も。高級レストランならいい服着ていこっかなー」
私はとりあえずパジャマを脱いだ。
着替えてなかったのは本当にぶっつづけて勉強をしていたからだ。起きて、携帯いじって、プレゼントもらって、勉強して、勉強して…。着替える暇がなかった。
「…あんたほんと貧乳ね」
「巨乳ってなんか勉強しづらそうじゃない? テーブルの上におっぱい乗ったりしてさー。勉強の邪魔でしょ」
「あくまで勉強が基準なのやめないかしら」
そう言われても。
「二人はドレスコードに引っかからないような服持ってるの? 特に白露」
「普段着はジャージだからないな。そういう店私はあまりいかないから」
「ああ、いつも誘ってないしね」
「誘っても結構断るからな。正直マナーとかは最低限でいい。刺し箸しないだのとかそれぐらいが庶民の私にはちょうどいい」
わかる気がする。
で、月乃が連れてきたのは高層ビルの上階の高級な海鮮レストランだった。
私は慣れないドレスを着て中にはいる。ドレスコードがあるらしく引っかからないようにするために。
私たちは予約していた席に座ると、夜景が見えるところだった。窓際の席。ベストポジションじゃん。
「……あれ高校生? 随分とまぁ派手にお金を使っちゃって」
「身の丈にあってないな」
とまぁ、後ろの小言以外は。
気にしない私でもこういうのは気になる。っていうか、月乃の顔が見えない位置だし私の顔しかわかってないから言えるんだろうけど。
月乃以上に稼いでから月乃を馬鹿にしたらどうだろうか。
「メニューはお決まりでしょうか」
「とりあえずぱぱっと適当に作っちゃってくれないかしら。結構なんでも食べるから」
「畏まりました」
と、給仕さんは去っていく。
「私たちはあんな風な迷惑な注文はしないようにメニューはちゃんと決めようね」
「そうね」
月乃。笑ってるな。
「月乃、笑うなよ」
「笑う? そうねぇ。今も私の正体に気づかない時点で笑うしかないじゃない。うちの会社給料だけはいいからたまにはここに来れるものねえ」
「知ってる人なのか?」
「うちの会社の社員よ。ねえ?」
と、月乃が振り向くとその人はだんだん顔を青ざめさせていった。
隣の女性は誰このブスはとかいってるが、それは聞こえてないようだ。
「なに? 私たちの食事に文句でもあるの? 私はここ結構お気に入りで何回も来てるのよ。っていうか料理長とも知り合いだしあんな適当でも伝わるのよ」
「も、申し訳ございませんでした!」
「ねえなにこのブス」
「お前は黙ってろ!」
と、無理やり女の頭をおさえつけていた。
「私の友人の誕生祝で来たっていうのに不快な思いさせないでくれ…。いや、もうパン子の家でしたわね」
「勉強することは不快じゃないだろ」
「とにかく、人を見下す発言をするというのは何様のつもり? 人を見下す前に相手を選んだほうがよかったわね。もちろん見下すのはよくないけれど」
「すげえ、汗がナイアガラの滝みたいにでてるぞ」
「超滑稽」
月乃ぶちぎれてますわぁ。
「お客様、どうかなされましたか」
「いや、いい。す、すまないが勘定を…。ほんとに申し訳ございませんでした!」
最後まで平謝り。情けない。
「ったく、なんでパン子の誕生日にこんなやつと…。パン子ってこういう手の輩に出会いやすいの忘れてたわ…」
「いやー、惹かれるなにかがあるのかな」
「褒められることじゃないわよ」
と、小突かれた。




