パン子が悪いんだよ!
私の上に月乃が覆いかぶさっている。
「ねえ…パン子が悪いんだよ?」
「なんで今そのネタをっ…! てか離せ…!」
「こんな気持ちにさせたのはあなたじゃない…」
そういう月乃の顔は大層お怒りだった。
きっかけはファストフードから帰ってきたあとだった。私は月乃を見て一言放つ。「ちょっと太った?」と。
すると、月乃はぴきっと青筋を頭にたてた。
「……気にしてることを」
「わ、私の気のせいかと思って…。ま、マジなの?」
「あなた、たまーにデリカシーがない発言するとは思ってたけど…。一回締めないとわからないのかしら」
「ひい!?」
私は脱兎のごとく逃げだした。
いや、見た目はそんな変化ないんだよ! ただなんか少し雰囲気変わったなーって思って試しに聞いてみたら図星だった!
私は会社の中を逃げていた。だがしかし、私の運動神経だとすぐに追いつかれるのが関の山。私は追い付かれた月乃に拘束される。
で、冒頭に至る。
「わ、私が悪かったよ…。ん?って感じた程度だから…。現に今まで私も気づかなかったぐらいの変化だから…」
「…それでも、よ。あんたみたいな体重も気にしない人に言うのはいいけど私だって普通の乙女なのよ? 体重とか気にするに決まってるでしょうが」
「あ、あははぁ…」
私は苦笑いを浮かべる。
助けを求めて白露を見ると、白露は首を横に振った。そういえば白露も体重気にするタイプ(スポーツ選手として)だった! 体重とかそういうのも管理するのもあるよなぁ! 体重を気にすることに否定的なわけがない!
「……歯を食いしばりなさい」
「ぼ、暴力はいけないぞっ! ほら、みんな見てる! 私が全面的に悪かったよ! あ、謝るからマジで許して! 怖い!」
私が目をつむり、衝撃が来るのを待つ。が、いつまでもこない。
恐る恐る目を開けると、月乃が目を丸くして驚いていた。
「……怖い? あんたが?」
「なんで意外っていう顔してるの! なんでもない人から殴られても怖くないしむしろやり返すけど友人とかから殴られたら怖いって!」
特に親友とかにはやり返せないタイプだ。自分自身が心の中で敵だと思ってないと本当の報復ができない。悪ふざけみたいなやり返しはできるが……。
私自身、結構ドライなほうだと思ってる。友達でも裏切れば簡単に失望し反撃に出るタイプだ。情がないと言われるが…。白露と月乃にだけはどうしてもやり返すことはできない。
「…そう。怖い、ね」
「な、なに笑ってるの?」
「あんたの珍しい一面が見れたなって思ってさ」
「やられたらやり返すのがパン子なのにそれができないとは…。長年の関係って恐ろしいな」
いやいや、それが普通でしょ。
もう私は二人に対しては信頼じゃなくて、もっと別の何かを感じている。信頼よりももっと上の……。なんつーか、なにをしても味方でいられるし何をしても許せるぐらいにはなっている。これを何ていうのかは知らないが……。家族愛?違うな。
まあいいや。
「……ま、今回は許してやるわよ。パン子の珍しい一面も見れたし。怖がらせることもできたことだし嬉しいわ」
「ぐっ…次は私が怖がらせてやる!」
月乃は私を解放し、上機嫌で立ち上がる。
私はなんでだろうと思いながら立ち上がる。
「…百一物語でもするか?」
「なんで怖がらせようとするの? ってか全然怖くないのと、なんで一個話が増えてるのか」
「くっ…どうやったら怖がらせられるんだ!」
そんな悔しい、みたいな顔せんでも…。




