それなりの理由
で、ちなみにいうとあのウイルスは本当だったらしくただシャットダウンを強制的にさせるというだけのものだった。
私は次第にイラつきが募っていく。権力を乱用するつもりはない(パン子が結構乱用させてくる)が、この私ですら本当に親の七光りを使って潰してやろうかと思ってしまった。
「それで? もし私が巻き込まれていたらどうしたんです?」
私は一緒になって尋問をしていた。
泣きながらごめんなさいと謝ってくるが謝罪はいらない。
「私はどうするのか、と聞いているのです。もちろんどうすることもできませんよね? 私は阿久津家の令嬢。もし私がなっていたとしたら今以上にひどいことになりますよ?」
「……ど、どうか示談に」
「するわけないでしょう。こっちは裁判費用捻出するのも簡単だし慰謝料だってふんだくれる立場なのよ? あんたらの未来を考えて示談にするわけないでしょう」
示談にはするつもりはない。あくまで私は。
「ま、パン子がログアウト出来たらパン子に制裁でも加えてもらってそれでチャラにしてあげるわ」
「そ、そんなことでいいのですか…? うちのバカはそれぐらいでも足りないと…」
「あの閉じ込められた友人、結構怖いですよ? 私だってたぶんあいつが本気出したら無一文にできそうなくらいには賢いですから」
多分出来そうなのよね。
人間の心理をわかっているっていうか……。洗脳なんて絶対に容易くできるし、精神を壊して自殺まで追い込むことも可能だと思う。
あいつは結構な爆弾なのよね……。マジで怒らせたらやばいタイプ。普段も結構怒りやすいけどそれは怒り度でいうと3とかそこら辺な気がするのよね…。
「最悪、自殺したほうがマシだっていうこともされるかもしれませんから」
「ひ、ひい!?」
「私からは何もしませんよ。ただ、あなたがたがしたことのせいでパン子はどれぐらい怒ったかによりますよ。あなたがたは」
多分アイツそんな怒ってないと思うけど。
隣にいる白露も怒ってないだろうなと思ってるのか少し笑ってる。現に今も怒りなんてもってなくてただただ茶を飲んでたし……。
マイペースというか、たぶんどうにもならないってことがわかってるからか素直に受け入れただけなんだろうけど……。
「……悪口言ってたよってでっち上げて怒らせる?」
「いや、その程度じゃ逆に笑ってやり返すだろう」
「そうよねぇ」
あいつ人が怒りそうなところではなかなか怒らないのに妙な点では怒りやすいからわからないわね。あいつの怒り基準……。
「さ、私は尻拭いでもしてきますか。阿久津さん。ちょっと頼みました」
「わかりました社長」
と、社長は出ていくと、男らの目が変わる。
「……なんで俺らがこんな小娘相手に」
「白露」
「わかった」
白露はそのまま会議室の机に向けて一本背負い。
強く背中をうった男は声も出ていなかった。
「てめえ! 会社のもの壊して…!」
「あら、いくらでも弁償できるからいいわよ。それより、まだあんたら自分らの置かれた立場が分かってないのかしら。ったく、親はあんないい人なのになぜ息子はこうも…」
「……おめえだって俺の立場が分からねえだろう! なにがわかるってんだよ! 才能に恵まれたあんたに!」
と、社長の息子が叫んだ。
「俺はなぁ! 小さいころから教育を受けてきたけどなにもできなかったんだよ! なのになんだぁ!? 周りは才能に溢れて俺よりできる! そんなんうぜえんだよ! 周りの期待も! 失望も! 何もかもが!」
と言われて気づく。
こいつは多分私の鏡なのかもしれない、と。私も何もできないというコンプレックスがあった。たぶん、こいつも同じで……。
パン子には悪いかもしれないが、ちょっと同情が沸いてしまう。
「才能がそんなにすげえのかよ……! 失望なんてうんざりなんだよ…! なら最初から期待してんじゃねえよ……」
「……立ちなさい」
泣いて目をおさえる彼に私はそういった。
私だってなにもできない。コンプレックスがある。
「……やっぱり、期待って辛いわよね」
「ん? なんだこの空気は。不良が猫拾った感じの雰囲気だな」
「白露、空気をぶち壊す発言辞めてくれる?」
ま、しょうがない。
たぶん根っから悪い奴じゃないんだと思う。やり方はまちがってるけどきっとあのウイルスも俺にはこんなのが作れるんだぞ、という力の証明なのかもしれない。
……ま、口が悪いのは多分元から。擦り付けも元から。
「こほん。とにかく、ま、周りから期待されて失望されるのも私だってたくさんあるわよ」
「お前に…!」
「わかるわよ。友人がこいつとあの…パンドラよ? 社長はともかくパンドラのことを見たあんたにならわかるでしょ」
「……ああ」
と、取り巻きの一人が納得したようにうなずいた。
「こいつらの友人なら私もできるだろっていう押し付けがたまにあるのよ。私なんてただただ金持ちに生まれて金持ちに育てられて金持ちっていうだけよ?」
「人民の人民による人民のための…」
「リンカーン大統領は持ってこなくていいのよ」
それをオマージュしていったわけではないから。
っていうか、もう立ち直ってるのね。切り替え早いわぁ。
「私もそれ相応の教育は受けてきたけどこれといって才能はないわ。頭の回転もそれほどだし運動神経も並よりちょっとあるかな?って程度よ。私ほどきっと同意できる人もいないわ」
「なぜどやってるんだ月乃」
無性にどやりたくなって。
「ともかく、今後あなたはどうなりたい? 居づらいけどこの会社に残って働くか、それともしっかりと裁かれるか」
「……虫がいいかもしれないけど、働きたい」
「…わかったわ。社長に私から掛け合ってみるわよ。もう反省はしてるのよね? あんたらも!」
「は、はい! しております! っていっても、俺らは…」
「責任逃れしない! あんたらも関わってる時点で全員同罪よ! あんたらがしでかしたことであんたらの社長が代わりに尻拭いしてるのよ! 擦り付けあわない!」
全員正座させ、私は説教タイムになっていた。
「母親みたいだな」
「…白露も正座!」
まあ、彼らもこういうことができるんだぞと言いたかったのかな?やり方間違えてるけど。でもほとんど気にしないパン子でよかったね。たぶん怒ってないよ。




