人生は時の運
まずは二人ともいいペースで上っていた。
ビャクロはあえて厳しいところを選んだっぽい。掴むところが極端に小さいのだ。その点で言えば掴むところが多いタケミカヅチは有利だが、それと同じスピードで上ってるビャクロさん怖い。
「なかなかやるな」
「ろ、ロッククライミングは小さいころ父親と一緒にやってたからね…。要領だけは掴んでるよ」
友達に教わったり父親に教わったり。コ〇ンとほぼ一緒じゃねえか。そのうちボートとか初めて運転してもハワイで親父に習ったとかいいそうだ。
でも、タケミカヅチも早い。ビャクロは多分一回もやったことないだろうが、これをたぶん自分のセンスだけであのスピードなあたり相当なバケモンだ。というか、ほとんど腕の力で上ってる。
「お前にいいことを教えてやる。私には遠距離技がない」
「…妨害なんて男らしくない真似はしないよ。正々堂々やるさ」
「さすがだな! 私も本気で迎え撃たねばならないな!」
その正々堂々という心意気が嬉しいのか、ビャクロはテンションを上げたようだ。
妨害はありというが、彼女自身正々堂々とやるつもりなので相手もそう来るのがうれしいのだろう。そのせいで若干スピードアップした。化け物か。
「ゴールが見えない……。それに、なんか濡れてきた?」
「雨が降ってきた。滑りやすくなるぞ」
「天候代わるんだ…」
山の天気は変わりやすいというがここ山じゃないし。
でも濡れてきたということは滑りやすいということだ。落ちる可能性も十二分にある。ダメージはきっとあるのだろう。もうこの位置から落ちたら落下ダメージがあるのだろうな。
その雨の天候にも負けず、がっしりと岩を掴むタケミカヅチ。
だが、スピードで言うとビャクロに負けていた。ビャクロはさすがというべきか、雨が降ってもお構いなしなのかささささっとゴキブリのように登っていく。いや、うん、例えが悪いけど。
「こりゃ勝ち目ないかな」
もう目に見えるくらいには差があった。
成人男性一人分くらい離れていた。もうこの距離を詰めるのは不可能だろう。そう思っていた矢先、事件が起こった。
それは、ビャクロに起こった。
「あっ!」
ビャクロは掴んでいた手が雨でぬれていたせいか滑り、バランスを崩していた。そして、まずいと思ったのか岩を掴むがそれもすべる。そして、最後には…。
「くっそ! 事故ったああああ!」
と、落下していった。
取り残されたタケミカヅチは驚いていたが、先に進む。猿も木から落ちる、ビャクロも岩山から落ちる。
タケミカヅチ、滅茶苦茶運がいいな。運が味方してるって感じ。
結構な高さまで登っているし、ビャクロはまた一から。もう勝利は確実だろう。
「今回は運に助けられた…。まさか滑って落ちるとは思ってなかったよ」
「ビャクロも思ってなかっただろうよ…。ほら、登っちゃいな」
そして、タケミカヅチは昇り切って、遺産である槍を手にしていた。
《シャドウ魔王軍最高幹部、ビャクロが守っているダンジョンが陥落しました。陥落させたプレイヤーが魔王の遺産である槍を獲得しました》




