閑話 王子たち
愛しのエレメルは魔王領で無事に過ごせているだろうか……。
このニホンという国の第一王子として生を受けた私は、正妃の子ではない。側室の子であり、正妃の子である第二王子のアデュランよりも下の扱いを受けている。それには不満はない。
ただただ、解せないのは第二王子がエレメルを利用しているということだ。
「エレメルは無事死んだだろうか。死んだ報せが届かないってことは上手くやったってことだろうな」
「……アデュラン。魔王はもういいだろう」
「勝手に我が国の一部を分捕った魔王をいいだろうとは愛国心がないな兄上は」
「手出しするというのが危険だということだ。あちらは頭の冴える人がいる。こちらの作戦など筒抜けだろう」
「こう短絡的な思考をしているのに賢いとはお里が知れる」
アデュランは魔王を追いやろうと画策している。
正直、あのパンドラという魔王軍の参謀には筒抜けだろうな。そもそも、手出しするというのが危険だということに気づいてないのだろうか。
あの手の輩は策を弄してくるし、その策が厄介なんだ。
「まぁ喜べよ兄上。エレメルは死んでないらしいぞ」
といってアデュランは数枚の紙を束の中から取り出した。魔王城の内部報告書だ。渡されたのですこし見てみるとあの日僕が見た地図とは明らかに違っている。こういう構造はしていない。アデュランは見たことがないからこれを真実だと思い込んでいる。
やはり利用されているじゃないか……。言っちゃなんだが、バカか?
「魔王の城の内部を知ったことで攻めやすくなった。脆い点をみつけそこから襲撃だ」
「……もうこの国はダメだなぁ」
こういうような真偽を見抜けないバカが王になるのはダメだろう。
僕が王になるのが一番なんだけど……。父上は正妃の子を王にするつもりだし僕に王位継承権はほとんどないに近い。
だからどうすればいいのかというと手っ取り早いのは暗殺。けど、身内だし情があるのと、疑われるのは僕なのだ。危ない橋は渡れない……。
「こんな煩わしい問題があるなら王子になんて生まれたくなかったな」
そうごちる。
そういったところで現状は変わらない。あの魔王は、いい人のように思えた。あの街は前々からよくない噂があったのだ。
奴隷の闇市がある……とか。奴隷はこの国では合法。だがしかし、違法奴隷というものがいる。人を攫って勝手に奴隷にしてしまうという違法奴隷。
それを知ったうえでやったとしたらそこまで悪い人ではないと思う。あと、あの街は魔の森の近くというだけあって冒険者たちも兵士も実力者揃いだったのだ。それを倒せるような輩がなにもしてこないのだから侵攻するつもりはないと思える。
僕としては敵対するよりも手を取り合って仲良くする方がこの国の為になると思っている。
実際問題として考えてみると、仮に戦争が起きたとしよう。
こちらが不利だ。何度も言うが屈強な輩を相手どって余裕で勝てる相手に戦争を仕掛けるなどバカのすることだ。
仮にこちらが勝ったとしても被害は甚大。国に益を生まない戦争になることは必然的だ。
「どうにかして食い止めないとな。さすがに見限られるわけにはいかない。エレメルを保護してもらっているんだ。いつか迎えに行くために僕はやるべきことをやろう」
僕は気を引き締めた。




