ちょっぴりな復讐劇
久しぶりに敵キャラになっている気がする。
いや、まあ悪事を働いてるわけじゃないけど。それでも敵というのは何とも久しい感覚だ。最近は戦闘という戦闘をしてないからなぁ。
それに、今気づいたんだがチョコレートの斧も使えるらしい。たぶん使わないけど。
「パンドラァ!」
「おっ、また挑戦者が来たね?」
私は立ちあがる。
そこには以前私に戦争を仕掛けてきたルフラン神聖王国の元騎士プレイヤーがいた。
彼は憎たらしそうに私を見ている。私が何をしたというのか。あんたがあの吽神さんに見捨てられたからといって私が悪いわけじゃないだろうに。
「お前のせいで……!」
「私のせいで?」
とにかく私が憎いらしい。
私はそんなのはどうでもいいんだが。それに、すっかり忘れていた。私は結構人から恨みを買うタイプなので誰から恨みを買ったか覚える気がないんだよな。
「お前は悪なのに……! なぜ俺が断罪されなければならない! なぜ俺が辞めなければならない!」
「悪、悪ねぇ」
私は悪か? それは違う。
善人でもないが、悪人でもない。悪人寄りだが、完全な悪とは言えない。私はまだ理性がある方なのだ。現実世界で殺人をしようと思ったこともなければ誰かを騙し利益をむしり取ろうと思ったこともない。
「まあ、正直言うところで何が正義で何が悪とかそんなもんはどうでもいいんだけどさ」
私自身自分が悪だとは気にしたことはさほどない。
「んなもんごちゃごちゃ話すより始めようよ。返り討ちにしてやるからさ」
「死ねえええ!」
と、いきなり間合いを詰めて剣で切りかかってくる。私はなんとなく読めてはいたので躱し、銃を撃つが、ぎりぎりなところで躱される。
「お前に復讐するために鍛えてんだよ! ファイアー!」
「魔法っ!」
私は躱せず被弾してしまう。
完全に不意を突かれた。伊達に鍛えてるってわけじゃなさそうだ。だがしかし、鍛えてるのはお前だけじゃない。
私は自分の才能に溺れるほどのバカじゃない。私だって努力はしている。鍛えてもいる。
私は引き金を引いた。
「あまい!」
一発目は躱された。
が、躱した先にはまた弾がある。躱す方向を予測してもう一発撃ちこんでいた。それに気づかず、眉間にぶち当たったのか地面に倒れこむ。
そして、私は今度は斧を振りかぶると、相手は咄嗟に剣を前に突き出した。剣は私の喉に突き刺さる。いてえ。
「最後の悪あがきか? なら、死ね」
私は斧を振り下ろした。
突き刺さっていた剣は塵となって消えていく。ポリゴンとなって消えていく彼のアバター。彼はきっと騎士プレイをずっと楽しむ予定だったんだろう。吽神さんに近づくためにも吽神さんの近くにいたかった。その目論見は私のせいで瓦解した。
ま、あれは自業自得だろうけどさ。
「それにしてもあっぶねー。意識が飛びかけたぞ。喉元に食らうのはさすがにまずかったか」
シャドウアバターは戦闘が終わるとすぐに回復する。(勝てた場合のみ)
ボスなのでずっと減ったままというのはダメなのだろう。私の傷が治っていくが、彼はまたどうせ来るだろうなと思うのでちょっと気がめいってしまった。




