決して振り向くな
歌を暗記した。
私は地下に降り、歌を歌う。が、その前に…
「ユリカ。歌を歌っているときは絶対に振り向かないこと」
「わ、わかりました」
「振り向くとどうなるかはわからないけど……」
絶対に振り向かない。これが重要なのかもしれない。
後戻りできないぞということを示しているのか……? そういう風な考えになるとユリカを連れていくのは危険すぎる。
しょうがない、ユリカは連れていかないことにしよう。
「……ユリカ、ライトの魔法を教えてくれる?」
「え? いいですけど……ひ、一人で行くつもりですか?」
「うん。魔女とはいえまだ人間のユリカがいくのは危なすぎる。私の推測だと嫌な予感がするから」
「わ、わかりましたぁ! で、では教えますね!」
と、ライトの魔法を覚えてライトの魔法を展開する。
足下がようやく見えるかなっていうぐらいの光だが真っ暗闇よりはましだろう。私はユリカに視線を送るとユリカは梯子を上っていった。
そして、私は深く息を吸う。そして、歩き出す。
「まじょのしまはよみのくに」
一フレーズだけ歌い始めた途端、空気が変わったような気がした。
ひんやりとした空気が私を包み込む。そして、後ろに気配を感じる。だが、振り向いちゃいけない。そういうルールだからだ。
「にんげんたましいゆらゆらゆれて」
今度は背後から生暖かい風が来る。
気になっても振り向いてはいけない。
「きょうもだれかがしんでいた」
臭い。腐ったようなにおいが背後からしてくる。だが振り向いてはいけない。
「そのひとたましいゆられていくよ」
陰が二つ背後から伸びてくる。が、振り向いてはいけない。
「そのつぎのひもだれかがしんだ」
ポトリという音がする。振り向くな。
「ひとりまたひとりしんでいく」
ポトリポトリと音がする。振り向くんじゃない。
「かなしきまじょはきょうもしねない」
誰かが背後ですすり泣く声が聞こえる。見てはいけない。
「そのやくわりがおわるまで」
誰かの足音が聞こえてくる。振り向くわけにもいかない。
「ししゃのくにのまじょは」
誰かの高笑いが聞こえる。振り向いてしまってはおしまいだ。
「きょうもししゃにあいされる」
歌い切った。
すると、階段が突如消え始める。私の足を誰かが掴んだ。失敗か……? だが、まだ振り向いてはダメだろう。
私の足を誰かが掴み、そして、私を闇へと誘いにきたのか、手はどんどん私を引っ張っていく。私の視界は暗転した。
「マジョサマガキタ」
「マジョサマヲオツレシロ」
そういう声が聞こえる。
私は一体、どこに連れていかれるのだろう。




