謎が謎を呼ぶ
お金を分配し終えた後、アイリーンが不意に呟いた。
「そういえば創始者さんってなんで生きてたんだろうね」
もっともな疑問だった。
たしかにその謎が残っている。この学校ができた時代の創始者の顔だった。そっくりさん、というわけじゃなさそうなのに。それに、宝に対するあの執着はどうにもそっくりさんとか先祖だとか思えない。
それに、文献によれば彼女は結婚歴はなかった。
「禁呪……の類じゃないよな。そういう禁呪は聞いたことがない」
「歳をとらない魔法…。そんなのがあるわけがない」
「だよねー。でも、あれって絶対創始者だよね。なんでなのかな?」
私も禁呪は一通り勉強はした。が、たしかにそのような禁呪はなかった。
もしも不老というのなら今まで死ななかったのはなぜだろう。少なくとも人間はそこまでいくと精神がだいぶやられて自殺に追い込まれてもおかしくはないはずだし、今までなりを潜めていたのも気になりはする……。
「気を付けたほうがいいかもな。もしあの人が不老だけでなく不老不死というなら死んだと見せかけて生きてるということがある。俺たち狙われるかもな」
「そんな摩訶不思議なこと信じたくはないが、あの人が生きている以上ありえないというわけではないな」
「あと、あの人って今までどこにいたんだろうね? あの人の姿は私が学校の中で一度も見たことないよ?」
そうなんだよな。
たまに階段で目撃される例があったが、それ以外の目撃証言がないというのが不思議な点だ。日中は人数が多いから見られていないはずがない。
夜はまあいいとしてもだ。
「幽霊…なのかもしれないな」
「幽霊ならば腹部を貫かれるはずもないし、血もでないだろう。きちんと肉体があったはずだ」
「そっか。血かー。たしかに血が流れてたね」
生身の人間であることは前提条件として……。
謎が謎を呼ぶなこの宝探し。次から次へと謎が出る……。あの階段の七不思議に関係があったりするのか? 13階段に。
だが、あれは多分数え方の問題だから関係ないと思う。話で聞いても13段になるぐらいしかいってないし。
「先生はどう思う?」
「どう思うつってもなー」
先生はなぜ生きているのか。
いや、精神が崩壊していたような気がする。きっと死にたくても死ねない体なのか? だとしたら危険だが……。でも、そうじゃない気がするんだよな。
「クロムがみた階段の創始者はその後どうなった?」
「あ、あれか。階段を転げ落ちていったと思うな。怖くてあまり見てないが。それから下見てもいなかったからてっきり幽霊と思ってたがあれ創始者なのか?」
「わかったかもしれない」
なるほど、階段から転げ落ちた。
「彼女はきっと死に続ける運命なんだよ。だからこそ生きているんだと思う」
「死に続ける? んな馬鹿な話があるか?」
「階段から転げ落ちていなくなった、つまり次の死に行く先に向かったってことでしょ。で、私たちのところに来たのは偶然で、たぶん私に殺されると予知していたからこそ襲ってきたんだと思う」
「死に……」
そうとしか考えられないのだ。階段の幽霊と結びつけるなら。
「お嬢様、学園の方がいらっしゃってますが」
「学園の方? 通して」
と、アイリーンがいうと、アヴェールがやってきたのだった。
「パンドラさん、不思議なことが起きました」
「不思議なこと?」
「パンドラさんが殺したであろう人の死体が我々の目の前から突如消えました」
「ふぅん……」
死に続けるという線が濃厚になってきたな。
死体が消えたということはまだ死に続けるということじゃないだろうか。彼女は永遠に死に続けなくちゃいけない運命を背負っている……とか。
「先生、先生の予想があたって……」
「消えた? あの腹部に穴が開いてピクリともしなかった彼女が魔法を使えるはずがあるまい」
「えーっと、本当に謎だね……」
とりあえずメルセウス様に話を聞きたいな。
教会に行って話を聞いてみよう。




