賢者の石について ①
やっと見学生案内から解放され、家に帰ってゲームにログインする。
夕方となっており、私はとりあえず図書館に向かった。が、特になし。そのまま夜になってしまったのだった。
夜は私の部屋に集まり、みんなで調べたことを持ち寄るということだ。
「各々何を調べてきたかは知らないが、情報共有しようぜ。じゃ、まず俺からな。俺はヒルダさんのことについて調べてみた。が、その文献がなかった。こういうのは学園内で起きた事件簿という本にまとめられてそうだったのにも記載なしだったぜ」
とクロムが言う。
記載なし、記載なしね。確かにその本は私も見たが、たしかにその事件だけがなんだか意図的に載せられてない気がした。同年代に起きたであろう事件はきちんと載っていたから不自然だ。
「じゃ、次は僕だな。僕は四番目の七不思議について調べてみた。四番目の七不思議は本当は渡り廊下の七不思議だと思うが、一つ奇妙な点があった」
「奇妙?」
「渡り廊下で自殺した生徒はどうも自殺するような性格じゃなかったそうだ。ムードメーカーで、成績も良好、いじめられた形跡はなし……。そんな順風満帆な生活を送ってる彼女が自殺するだろうか」
とグルツが述べる。
現実に満足していたなら自殺する理由はなさそうだ。殺害されたという線もあるのかもしれない。だけど、その事件は自殺ということだ。
せめてその頃の目撃者がいれば話は別なんだが……いるわけがない。
謎がまた増えた。
「彼女って友達とかに悩んでた?」
「いいや、友達は多いほうで楽しそうにしていたらしい」
「なんともそれはおかしいな。俺だったら友達も多くて、成績もいいなら万々歳、自殺なんてしたくないって感じだがな」
「そうだよねー。何でそんな子が自殺しちゃったかなー」
「わからん、が、まだこの本には謎がある」
「謎?」
グルツは本をめくって私たちに見せてくる。
見せてきた本に書かれていたのは英語だった。日本語が公用語のここで英語というのは使われないどころか知らない人が多いらしく、この言葉で書かれたものは解読が難しいのだとか。
私は一応読めたりはするが……。
「この言葉で続きが書かれているために内容がさっぱりわからんのだ」
「こりゃたしかにわからないな。俺もさっぱりだぜ」
「”彼女は魔に憑りつかれていた、魔法にかかっていた”って書いてあるね」
「先生読めるのか!?」
「まあ、大方」
これまためんどくさい。日本語で書け!といいたいがそうせざるを得なかった理由があるのだろう。そもそも著者がタクシの日記ということでいかにも日本人ぽかった。つまり転生者だった、もしくは転移者だったという可能性が高い。
転生者であるということはいいとして、問題は魔法にかかっていたというところだな。
「魔法……。彼女が自殺するように仕向けた魔法だろうな大方。だが、その魔法聞いたことはあるが禁呪じゃなかったか?」
「あ、ああ。洗脳魔法は禁呪の一つ。魔法を使った本人も無事ではなかったはずだ」
「賢者の石使ったんじゃない?」
「「「賢者の石??」」」
なにそれ。私たち三人は知らない。
クロムもなんだそれと初めて聞くらしく、グルツもアイリーンに向き直っていた。
「あ、これ公爵家と王族ぐらいしか知らないんだっけ。言っちゃったなぁ。まあいいか。賢者の石っていうのはあらゆる魔法を使用できるようにする石だよ。禁呪も代償がなく使えてそれは一千年も前には存在してたっていう話。現在はうちで保管してるよ」
「……それって大事な機密情報ではないか! もし僕たちが悪いこと企んで賢者の石を盗みに行くつもりだったらどうする!」
「ああ。危機感が足りないな。気を付けろよ」
「二人はそういうことしないってわかったから話したのに……」
と、アイリーンはむくれていた。
が、イイ情報だ。
「アイリーン、賢者の石って見つかった当時からアイリーンの家が保管してるの?」
「いや、前の所有者が死んで放置されてたんだ。悪用されないように私の家が保管してるってだけ」
「となると、たしかに使われた可能性が高い。創始者はアイリーンの先祖、というわけじゃないんでしょ?」
「うん。創始者の名前は家系図見ても出てこないから……。きっと違うと思う」
となると、賢者の石を持っていた家がおかしいってことだが……。
「賢者の石を保管してる人って必ず王に言わなくちゃならないよね?」
「あんな危険な代物王にだけは報告するよ」
「それは昔も同じだったはずだね。記録もされてるだろうしその記録を調べるか」
「調べて何になる?」
「七不思議作成者が創始者だと裏付けが取れる」
「そうだな。賢者の石で禁呪を使い洗脳していたという線が高くなるな。だが、その記録は王城にあるはずだろう。どうやって見るというんだ」
「こういう時こそコネを使うんですよ。みんな外出許可書を明日もらってくること。いいね? ただ、同じ理由ではなく家の事だとか適当に嘘をつくように」
私がそう言って今日は解散することになった。




