剣術指導
校舎を歩いていると、授業が始まったのかチャイムが鳴る。
リンゴンと鳴り響く鐘の音が校舎内に響き渡った。すると、剣を持った集団とすれ違う。がやがやと話しつつきちんと挨拶している。が、どこか感じが悪い雰囲気がした。
「A組の皆さんですよ。この学校は実力でクラス分けされておりまして……。Aクラスが一番実力があるということでみなさんの意識が高いって言うか、見下すようになっているらしいです」
「ほえー」
「もともと戦争に行かせる兵士を養成していた学校の名残と思えばまぁわからなくもないですね」
「そうだね」
戦争というのは強くないと生き残れない。
弱いものから死んでいく。それが当たり前だからだ。だからこそ強くなるしかなかった。この学校の実力主義もそうなのかもしれないな。
と、その時アヴェールが誰かとぶつかっていた。
「あ、ごめんね」
「い、いえ……どんくさい私がいけないので…」
と、メガネをかけた女子。
あの子があのAクラスの後をついていっていた。あの子もAクラスなんだなぁと思いつつ先へ行こうとするが、なんとなく面白そうなのであのAクラスについていくことにした。
アヴェールは困ったような顔をしていたが。
Aクラスの授業は剣術指導らしく、木刀を使ってやるということだ。
ただ、教え方がうまいのが教科書通り習った剣術だと強くなれないぞということを教えていたことだ。教科書通りいかないのが当たり前なのだ。
あくまで一つの剣術として教えるだけで無限に型はあると思う。
「せんせー、その方誰ですか」
「私もわかりません……。なんでいるんですか。ていうかあなた誰ですか」
「あ、自己紹介したほうがいい? 私は魔王軍のねー」
というと、みんなが剣を構える。
「魔王軍のパンドラだよ。いいね、その警戒心。ああ、ここには無断で入ったわけじゃなくてちゃんとアヴェールに案内されてるから。ほら、あそこで困った顔をしてる教師ね」
「アヴェール先生の……。みな、剣を下げろ」
と、生徒たちは剣を下げた……かと思いきや、一人の男の子が一気に間合いを詰めて私の胴体に剣をいれる。勝ったという表情をしていたが、私には物理攻撃が効かない。
私はその男の子に微笑みかけると不気味に感じているのか、怯えていた。
「う、嘘、だろ……。ちゃんと俺は切ったぜ……?」
「馬鹿だなぁ。戦争の時、いちいち攻撃が効かないだけで立ち止まってたらさ」
私は首を掴む。
そして氷神の能力を発動させ、首からどんどん凍っていく男の子。うわああああと叫び声を上げた。
みんなは呆気に取られて動けていない。が、一つだけ魔法がこちらに飛んできた。
「さすがに魔法はまずいっ!」
私は水魔法で打ち消した。
「は、離しなさい! 魔法攻撃が弱点だとわかりました! ま、まだ打ちますよ!」
「弱点? 弱点だからなんだって言うの?」
私はさっきの気弱そうな女の子のほうに襲い掛かってきた男の子を向ける。
凍っているのは首ぐらいなのに大袈裟な反応するんじゃないっての。
「私を殺せるとか思ってきたんだろうけど残念だったね。殺しはしないから」
私は手放すと、そのまま逃げるかのように集団の後ろに隠れたのだった。
「先生、あの女の子以外どうですかね」
「うーん。よくもなく悪くもなく、ですね。女の子のほうは不正解だといえるでしょう」
「えっ」
「パンドラさんはあなたたちが勝ちようもない相手。立ち向かおうとするのがダメです。薄情かもしれませんがこの場合は見捨てて逃げるのが一番いいでしょう」
「その点他の人は逃げもしなかったし戦いもしなかった。ただ茫然としていただけだったし不合格じゃないですかね」
「それもそうですね。しかしあなたも私の意図がよくわかりましたね。あの男の子も見事な演技でしたよ」
事前に打ち合わせとか一切ない。
あの先生があの子に目配せをしていたからなんとなく察したが、こういうのは事前に言ってくれないと困る。私もちょっとビビったよ。
「勝ちようもない強大な敵に出会ったとき、まずは生き延びることを優先しましょう。死ぬの覚悟で一か八かなんて滅多にしませんから。相手の実力をきちんと見計らい、無理ならば逃げに徹しなさい。あなたたちの場合、その微妙に高いプライドのせいでそうさせなかったのでしょうから」
「そ、そうだぜ……。まだ冷てえ……。プライドはけたぐり捨てないと真っ先に死ぬぜ……。凍傷起こしてねえよな……」
と、声をギリギリに出して先ほどの男の子が言う。
「私タダ見学に来ただけなのになんでこれ付き合わされるんですか?」
「いいじゃないですか。アヴェール先生の知り合いなら大丈夫だって信じられましたし」
「そう……」
「それに、あなた魔王軍なんでそう簡単に死にそうもなかったので」
魔王軍て不死身だと思われてませんか?




