月乃と天津高校
天津高校にいくと先生方が大慌てだった。
姫野という女性が職員室で尋問を受けている。ざまあと思いつつ、私は入館の時に書くものを書いていた。
「夢、野……。その、先ほど電話してきた夢野様で……」
「あ、そうだよ? さっき電話したんだよねー」
と、事務員と事務長が廊下に出てきて頭を下げた。
それも深く。本来、私にはどうこうできるわけじゃないが、この会社の資金提供が月乃だからだ。月乃父じゃなく、月乃本人。
この学校は、月乃父が出た学校ということで思い入れがあって、その高校に入らなくて悪かったということで月乃父が最初出そうとしていたが、月乃が出すことになった。
もちろん私にも相談されたことがあり、まあ、グレーだけどいいんじゃない?って許可だしたのだ。
「まあ、あの電話対応はないわな」
普通ならばもっと丁寧な言葉遣いをするだろう。たとえ知らない番号であろうと。あれじゃ不快感があって当然だ。
月乃も呆れてるだろうな。
「まあ、許しを請うなら違うんじゃない? 私が月乃を呼んであげるから必死に弁明したらどうですか」
「…………はい。先ほどの対応、並びに大変ご失礼を……!」
「それはもういいですよ。こちらもちょっと生意気でしたし。ここからは大人の話しましょう。私は資金提供はできませんので。あくまで決めるのは私の友人の月乃です。では、呼びますね」
私は月乃を召還!
月乃は不機嫌な様子で座っていた。
「で、パン子。その情報に嘘はないわよね?」
「もちろん。あの子から抜き取った学生証。それに、あのおじさんにも免許証とか見せてもらって名前を把握してる。証言ならあのおじさんに聞けばわかるよ」
「そう」
私は嘘をつかない。
こういうので嘘はつかない。きっちりと裏付ける証拠もでている。それに、ある秘策がある。証拠は?というと、携帯の中にあるからだ。
あのがなりたてて去っていく姫野の声が入っている。録音してるのは当たり前。証拠がないと疑われるからね。
「それで? あの子の処分はどうするつもりですか? もちろん停学は確定ですよね? 痴漢冤罪っていうのは人を路頭に迷わせることもあるんですよ」
「もちろんです! 当の生徒は停学三週間! このようにいたしました!」
「そう。それで?」
「それで、とは……?」
「それでどうしてほしいかってことですよ。ね? 月乃」
「そうね。よくわかってるじゃない」
それはもちろん寄付をそのままに……ということだろう。
だが、実直にそういってしまうのは気が引けるよなー。なんていうか、今更なんだけどゲーム内より現実のほうが悪役っぽいよな私たち。
「まず私も謝ります。売り言葉に買い言葉でした。ただ、できるんですか?と嘲笑うような対応をされたことがとても不愉快だったのでそうさせてもらったのですが」
「いえ、全面的に、こちらが悪いです。当の事務員にはもう一度指導をし、二度とこのようなことがないようにいたします。本当に申し訳ございませんでした」
「パン子も結構頭に血が上りやすいんだからおさえなさいよ。あんたがお金出すわけじゃないんだから」
「ごめん」
「まあ、もともと打ち切るつもりだったし……。だっていじめを黙認してるそうじゃない。何人か不登校になったのを知ってるわよ。いじめの件でクレーム来たそうだけど子供の遊びですからとかいって受け流していたのも調べたわ。よくもまぁ昔と比べてずいぶん落ちたわね。うちの父さんもがっかりすることでしょう」
天津高校は私が小さい時にテレビで見たことがある。たしか「高〇生クイズ」で。それで二位の成績を収めるほどのいい学校だった。
が、今はこんなに落ちぶれた。見る影もなかった。
と、その時だった。誰かが入ってきた。
「あの、すいません。パン子……じゃない、夢野と阿久津って来てます……ってあんたらここにいたのか!」
と、私たちのところに駆け寄ってくる。
「試合が始まったのに見に来ないと思ったら! なにしてるんだ?」
「いや、ちょっと話し合い……」
「ほう? まあ、大事なことならいいが、邪魔した。ちなみに一回勝ったぞ」
「そう。これ終わったら見に行くわ」
白露が柔道着のまま出ていった。
空気が一瞬にして変わったぞ。月乃が頬を赤くしながらコホンと咳払いする。
「ま、まぁ話を戻すわ。なんていうか白露の効果すごいわね。私たちも穏やかになったわ」
「白露って意外と能天気なところあるからなー」
「私が寄付する条件として、不登校の人が学校に来ること。それが条件よ。出来なかったら即寄付を打ち切る。それでいいわね?」
「は、はい!」
「ただし不登校の子に干渉しすぎないこと。それと、不登校になった原因の排除。それができなきゃ寄付を打ち切るわ。不登校の二年生よね。二年生が卒業するまでの間。たまに私も視察に来ますから」
「かしこまりましたっ! 全力を尽くさせていただきます!」
と、話がまとまったので、私たちは白露の練習試合を見に行くことにした。




