前哨戦
一月とはいえ寒いものは寒いのになんで私今日に限ってスカート履いてきたんだろう。
そう自分自身に疑問を持ちつつも、電車に乗るのだった。朝の電車を選んだのが間違いであり、ちょっとぎゅうぎゅう。後ろの人のカバンが私の背中や太ももに当たっていた。
普通に息苦しい……。
「なれない満員電車に乗るもんじゃないね……。きつい……」
電車は動きだしていた。
私は窓の景色でも見ようと思って窓付近に立っており、目の前にサラリーマンがいる。スカートあたりに視線が合った。いや、当たり前なんだけど。座ってるし仕方ないと思う。それに、足を骨折してるみたいで立ち上がれるわけないしね。
サラリーマンの人は視線をそらしてくれているが。
と、私は窓の外を見つつ周りを見渡していると。
めっちゃ綺麗な太ももしてる女子高生がいた。タイツをはいてはいるが、結構綺麗な足をしている。肉付きがいい……ってなに評論家みたいなことをしてるんだろう。
そして、次の駅に降り立つ時だった。
「こ、この人痴漢です!」
と、先ほど太ももを見させてもらった女性が男性の手を取った。
痴漢だと言われた人は驚いており、違うと否定していたが、周りはそうだと決めつけている。だがしかし、私はわかっている。
女子高生と中年サラリーマンは電車を降りたので私も降りることにした。
「駅員さん! こいつ私のお尻触ってきた!」
「本当か君。こちらに来なさい」
「ち、ちが……私はやって……」
痴漢冤罪って怖いよなぁって思いつつ、連れ去られていく駅員さんに声をかける。
「あのー、その人痴漢してませんよ」
「え?」
「その人左わきにかばんをはさんで右手でつり革持ってたんですよ? できませんよね? 手を動かしたらカバンが落ちるわけだし」
「あ、あんた何よ! 痴漢されたのよ私は!」
だからそんな見え透いた嘘をいうから悪いんだって。
「じゃあそれならその男性の手にあなたのパンツの繊維でもついてるんですよね? 知り合いに警察関係者いるんで呼んで検査でもしてもらいましょうか」
「も、もういいわよ!」
と怒って向かおうと私の隣を通ったので、とりあえずカバンに手を突っ込み定期らしきものをくすねたかと思いきや生徒手帳だった。
「ああやって痴漢冤罪生まれるんですよ。駅員さんも一方的に悪いとか決めつけてるから悪いんです。ここで言い分を聞けばいいじゃないですか。痴漢冤罪なんて男に勝ち目はないようなもんですけどね」
「……失礼した」
と、駅員も去っていった。
私は中年のおじさんに大丈夫ですかと声をかける。
「ありがとう……。助かったよ」
「いえいえ。で、どうします? あの冤罪を吹っ掛けた子の高校にクレームでも入れますか」
「そ、そうする。こういうような子がいちゃダメだ。けど、どこの高校で名前が分からないと……」
「わかってますよ」
私は学生証を見せる。
「これ、あの子の学生証です。名前は姫野 夕夏。高校二年生ですね」
「ど、どうやって……」
「スリの要領ですね。ま、あちらも犯罪行為したんでこんぐらいは許してもらわないと」
私はスマホで学校に電話する。
私はスマホをおじさんに渡した。潰すんなら徹底的にね。
「あ、もしもし。天津高校の……。はい、さきほどそちらの姫野さんっていう生徒に冤罪を吹っ掛けられたんで……。はい……。え、証拠……証拠、ですか?」
私は前の携帯でちょっと天津高校について調べてみる。
阿久津家が寄付してるな。オッケー。阿久津家顔広い! 助かるゥ!
「あ、ちょっと変わってください。もしもし、私は夢野って言うんですが」
私は天津高校の公式サイトを見つつ話し始めた。
「証拠が必要って言うんですね? 冤罪を吹っ掛けようとした犯罪者がいるってのに。ならこちらもでるとこでますよ。まず阿久津家からの寄付打ち切りでいいですか」
『あなたにそれができるんですか?』
と喧嘩腰だった。
前の携帯で月乃に電話する。こちらは前といってもパケット代払っているので普通の携帯と変わりない。
「できますよ。ちょっと電話しますね」
『なによ……』
「あ、月乃? 阿久津家って天津高校の寄付もしてるでしょ」
『してるわよ』
「寄付辞めてくれない? そのさー、その天津高校のやつに冤罪吹っ掛けようとしていた奴がいて学校側もそいつ庇うんだよ。犯罪高校野放しにしておいていいの?」
『もともと黒いうわさもあって打ち切る予定だったしいいわよ』
「おっけー。今から天津高校に電話してその旨伝えといて」
『わかったわ』
といって電話が切れる。
そして、再び天津高校の電話に出る。
「できるんですかと言われたんでやってきました。もうじきそちらに電話が来るんじゃないですか?」
『そんなこと……。あ、え!? 打ち切り!? なんでですか!?』
「お宅の高校に冤罪吹っ掛けるやつがいるのにもかかわらずにその子だけを保護して相手を悪者扱いしているからとのことで……」
私は電話越しでもわかるくらいに焦っている事務員に向けて、笑顔で突き放す。
「ね? 私はあの阿久津家の娘と友達なんだよね。それに、もともと黒いうわさがあったから打ち切るつもりだったんだってさ。ごめんねー。それじゃー!」
私は電話を切った。
「これで満足。すっきりした」
「……その、夢野さん。ありがとう。このお礼はさせてください」
「いいですよ。痴漢冤罪吹っ掛けられたら最悪路頭に迷うんですしこのぐらい、ね?」
それに、天津高校の悪い噂は私も知っていた。
私は天津高校に行くつもりだったんだ。ビャクロの練習試合を見に。さて、これから出向くとするかー。
どんだけ顔広いんだ阿久津家




