魔王の顔
私はある商会長と談話していた。急に商会長を名乗る人が来て、アポなしで来た……というわけではないが、ワグマがどうする?と聞いてきたので受けてやろうと思った次第だ。
表向きは魔王軍と通じるように相手も笑っているが内心はどう思っているのだろう。私は人の心は読めない。だけど、何を考えているのかは推測できる。
作り笑いを見抜くこともできるのだ。
「それでゴルフェル商会は私たち魔王軍と取引がしたい、ってことでいいんですね?」
「ええ。私どももあなたがたの後ろ盾があれば安心して商品を売ることができる」
「へぇ。で、私たちに利点は?」
「売り上げの二割を……」
「へぇ、自ら大手商会と名乗る割にはそんな額しか出せないんですねぇ」
私がそう吹っ掛けるとゴルフェル商会の人は引きつった笑いを浮かべていた。
いや、引きつりかけた、といってもいいだろう。すぐに表情を元に戻すのだった。
「不服ですか?」
「ええ、随分とケチなんだなって思って。そういうケチな人はうちの名前かしても結局は渋るでしょ? なら貸したくないなーって思いまして」
「なら三割でどうでしょう?」
「三割、ねぇ」
私はどんとテーブルに足を乗せる。
「足りないな。うちのブランドがわかっていない。最低五割。そうじゃないと話にならないな」
「わかりました」
「随分と物分かりいいですね? ですが、商品一つに名を貸すだけであってその商品の売り上げの半分、というわけじゃないですから」
「と、というと?」
「貴方の商会の月間の売り上げの半額って意味です」
「な、名前一つに対価を取りすぎではないでしょうか」
「ならば魔王軍の名はいらないということですか? 勝手に”魔王御用達”とかつけたらすぐにその商品を壊しますから。それでよければ勝手にどうぞ」
もともと取引するつもりはないのだ。
相手もその気がないというのはすでにわかっているだろう。だからあえてやっている。私の裏をかくことはしてこないのか?
だがしかし、妙だな。急にアポを取って取引にくるのも、まだ何か隠していそうなのも。
この際だから追及しておくか。
「そういえばそのかばんをさっきからごそごそとしてますがどうかなされたので?」
「えっ、いや……」
「もしかしてお探し物はこれですか?」
私は小さい紙に書かれた文章を持っている。
ちょいと水を操ってくすねた。何だろうなと思いつつ見ていると私たちの弱点をまとめた紙のようだった。
だがしかしこの弱点を書いた紙はほとんど間違いでありデタラメが書かれている。これを広めるぞとか脅す予定だったのかな?
「なるほど、これを広めたら自分でも倒せるかもって思って突撃してくる輩が増えるなぁ」
「あなたがたは無駄に人を殺したくないと思っていると思います。だからどうでしょう? 広めない代わりに……」
私は思いっきり立ち上がり足で机を蹴る。
「舐めんなよ。私たちは魔王軍だぜ……? 人を殺すことなんてどうとも思ってねえんだよ。遺族の悲しみとか考えると悲しくなるが人間はいつか死ぬ。それが今だったていうだけだぜ?」
「ひ、ひぃ!?」
男は尻餅をついていた。
すると、扉が開かれる。ワグマとビャクロだった。
「なんとなく外で聞いてたけど暴走してるわね……」
「どす黒い邪悪だな」
「私はあんたが死んでも悲しまない。だからすぐに殺せるんだぜ」
「あれはもう悪魔とかそういう類じゃなく魔王の顔よね」
「救いようがないな」
「ちょっとあんたら茶々入れないでよ悪役っぽさ出してるのに」
「いや、役じゃなくて本物の悪だろ」
「そうね。私もビビったわ。ギャングのボスってきっと今のパンドラの感じよね」
ひどい言い草だ。
一方尻餅ついていたゴルフェル商会の商会長はカバンを手に取り逃げるように走り去っていったのだった。
ちびったのか知らないが水を垂らして。だっせえ。




