怒りにそまった銀の月 ③
阿久津家が経営する会社の親会社についた。
系列がたくさん揃う阿久津家グループ本社はとても壮観で、ものすごく綺麗だった。社長室に月乃の父さんがいるらしく、私と月乃は受付を通る。
「も、申し訳ございませんが来客の場合はこの札を……」
「そんなことしてる時間はないの! 顔パスで!」
と、私は月乃をそっちに向かせる。
そして、私は急いでエレベーターに乗り込んだ。エレベーターの扉が閉まる。
「……その、パン子。今日はありがとね」
と、月乃はしおらしくお礼をしていた。
「才能ないってのは私分かってるの。でも、努力だけはしてるのよ。あんたらに追い付くために」
「……才能がないとか言うなよ」
私は月乃のほうを向いた。
「私は月乃を尊敬してる。努力できることが才能って言う人もいる。そうだよ。本当に才能がないなら諦めて努力なんかしないって。それに、才能がないわけじゃないよ」
「でも、私は白露みたいにずば抜けて運動出来るわけじゃないし、パン子みたいに並外れた知能もないわ! 何も中途半端なのよ! 才能がないのは当たり前じゃない!」
「んなわけあるか! 私たちが異常なだけだ! それに、月乃は十分才能がある! 私や白露は昔どんな性格だった!? 私は月乃と出会って変わった! 白露もそうだ! 月乃は人とかかわる才能があるんだよ! 人と人とのつながりが一番大事ってわかるだろ! 親が社長なら!」
そういうと、月乃は黙ってしまう。
私はただ勉強できるだけだった。人とのつながりを持とうとしなかった。もしもそのままなら、私はきっと孤独で過ごして後悔していたかもしれない。
白露もそうだ。白露も、人付き合いはしなかった。白露も月乃と出会わなければ未来は暗かったかもしれない。
「普段こういうこと言わないから恥ずかしいけどな、私は月乃に感謝してるんだよ。白露も多分してるさ。私が尊敬してる月乃を卑下するのはやめてくんないかな? 聞いてて不愉快」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ、あんなことがあった後だし卑屈になるのはわかるけど、卑屈になればなるほど思うつぼだぞ。そうしてると自分が悪いんじゃないかって思い始めるぞ。私がいる。卑屈になるな。私は口と頭だけは回るんだ。だから任せとけ」
私は月乃の肩を叩くと、最上階についたのだった。
エレベーターの扉が開き、私たちは社長室へ向かって歩いていく。途中ですれ違う社員の人は私たちをみていたが、そんなの気にしてる暇はない。
私はポケットに手を突っ込む。
ここまでくればあの爺さんは手を出せない。
私の勝ちだよ。あんたは負けたんだよ。月乃の祖父よ。あんたがバカにしていた庶民に負けるんだぜ。




