怒りにそまった銀の月 ①
ワグマの仕事を手伝っていると、急にワグマがログアウトした。
いきなり眠りに落ちたので、心配だ。現実世界で何かあったんだろうか。私は心配なのでログアウトして月乃に連絡を入れてみる。
『お爺ちゃんが来た……。ゲームみたいな軟弱なものをするから碌な大人にならない。ゲームは没収だって言われたわ』
という内容だった。
なるほど。合点がいった。あのおじいさん、古風な考えを持ってるし、選民意識が妙に高い頑固ジジイだ。あの祖父からあんな父親が生まれたと思うと微妙な気持ち。
月乃の父さんは祖父を反面教師にしてるとか語ってた気はするが。
『どうにかして返してもらうことできないかしら? パン子の口八丁でなんとかならない?』
あの頑固ジジイが人に言われて思想を変えるくらいならあんなに嫌われるわけがないのに。
だがしかし、弱みはあるのだ。あの爺さんは阿久津家に婿として入ってきた身であること、そして、私と同じ元は平凡なサラリーマンだったということ。
要するに阿久津家という家に入ったことによる驕り。それをつけばいいのだ。
私はそういう風に返信すると、わかったと返ってくる。そして、心配だから一緒にいて頂戴ときたので仕方なく行くことにした。
阿久津家につくと、なにやら怒声が聞こえる。
どうやら月乃が叱られてるらしく、ちらっと覗いてみると月乃は正座させられて月乃のじいさんががみがみと説教していた。
「うへぇ」
思わずそうこぼしてしまう。
月乃の顔はあまりよく見えないが、一滴、涙が垂れている。精神的にも辛いんだろうが……。人様の家にかかわることだ。本来は私が関わるべきじゃない。
だがしかし、私は月乃を見捨てるかといえば、ノーである。助けを求められたなら月乃と白露なら何でも手伝うつもりだ。
なので私は空気を読まず扉を勢いよく開けてやった。
「月乃ちゃ~ん! あっそっぼ~」
「な、何じゃお前は!」
怒りの矛先は私に向いて誰だとか言う始末だ。
一応昔出会ったことはあるし、その時にも滅茶苦茶言われたがやはり覚えていないらしい。私もどうでもいい人の事はすぐ忘れるしこれは仕方ないとは思うが。
私は月乃の手を引っ張る。月乃は私の背に隠れた。
「あらあら、そんなにこの爺さんが怖かったの? 悪い人だねぇこの爺さんは」
「…………」
月乃は珍しくしおらしい。私の服を掴む。
「爺さんとは年上に向かって何を言う!」
「じゃあ何て呼べばいいんですか? 私は貴方の名前を知りませんから。老害、ジジイ、じーさん、おじいさん、おじいちゃんどれがいいです?」
「舐めた口を……!」
「爺さんカンカン! そんなに怒んないほうがいいですよ! 先も長くないんですしもう落ち着いては?」
そういうと、私につかみかかってくる爺さん。月乃は怖くて壁に離れていた。
私は冷たい視線を向ける。その視線でビビったのか、少し力を緩めていた。はっきりいうが珍しく私もちょっと怒ってる。
わりとマジで普段は怒らないんだよ私って。
「月乃から全部聞きましたよ。ゲームをしてたら軟弱な大人になる、ですか。なら、あなたが一目置いている天才柔道少女である球磨川 白露もゲームをしてますよ」
「だからなんだという! 将来有望なものはいいんじゃ! 月乃は何の才能もない! だからこそゲームなんぞにうつつを抜かしてる暇はっ……!」
すると、爺さんは吹っ飛んでいく。
私は、思わず手を出していた。今のはちょっと本気で怒った。月乃には何の才能もない? そんなことはないんだ。私は月乃に助けられた。だからこそ今の私がある。月乃には人を変える才能がある。
私が殴ったことにより、さらに激昂したようだった。
爺さんは訴えてやる、貴様も一族も終わりだと告げてきたのだった。
「そうですか。そうですか。なら、いいですよ。私は帰りますね。月乃、家出しよっか」
「い、家出じゃと!? それはだめじゃ!」
「いいから。月乃。こんな爺さん放っておいてある場所行こうね」
私は月乃を連れて外に出るのだった。




